松下悠真と私、神川紗弥は幼稚園の頃からの仲だった。

いわゆる幼馴染である。家も近くなければ、クラスもほとんど同じではなかったが、お母さん同士が仲良くなり、その当時習っていた空手で接点を持つようになったと思う。


悠真はお母さんから「ゆう」と呼ばれており、私も気づいた時には「ゆう」と呼ぶようになっていた。
ゆうは私を「さよ」と呼んでいた。


空手の昇級審査で思うようにいかなかった時はお互い励ましあった。

年上の子に嫌がらせをされた時は
「しょーもない事言うなよ!」と怒ってくれた。



幼稚園を卒園する時にはお互いに
なくてはならない存在になっていた。
子どもながらにゆうが、居れば何があっても
大丈夫な気がした。




小学校、中学になった頃でも変わらずに仲が良かった。
ゆうは運動も勉強も出来、その上、誰とでも直ぐ打ち解けられる性格であり、誰に対しても分け隔てなく優しかったため、直ぐにモテはじめた。



「隣のクラスの柚愛ちゃん松下君の事好きなんだって!」


 「3組の真理亜ちゃん、松下君に告白したらしいよ!!」

友達から、ゆうの話を聞く度に何故だか
胸がチクチクしたが気付かない振りをした。


それでも変わらずに、お互いに部活で忙しい時にはゆうとメールや電話でその日合った事や、悩みなどを相談し励ましあったり、ゆうの部屋でゲームをしたり、漫画を読んだりしていた。



そんな日にも変化が訪れ始めた。

ある日の事いつもの様にゆうの部屋で漫画を読んでいる時の事だった。ゆうはその時、ちょうどトイレに行き席を外していた。
ゆうが机の上に置いていったスマホに通知がきた。興味本位で気になりスマホの画面を見てみると女の子らしき子からのメッセージだった。


まりあ )また、おすすめの漫画あれば教えてね〜♪


その時、何故だか心臓を鷲掴みにされた様な気持ちになった。
ゆうと仲がいいのは自分だけではないんだと。




そんな事を考えていると、ゆうがトイレから戻ってきた。


「さよ、ジュース、オレンジかコーラーどっちがいい?」


「……」

「さよ?」

「え、あ、じゃ、オレンジジュースお願い!」

「了解」


その後もゆうが何か話していたけど全く頭に入ってこなかった。


「でさ、、、、受かったんだ、」


「え、なんて?ごめん聞いてなかった」


「だから!オーディション、 受かったんだって!」



「え、この前言ってたあの、アイドルグループのやつの?!」



ゆうは何故か、最近アイドルグループのオーディションを受けてみたいと急に言い出した。
私もゆうぐらい顔が整っていれば一次審査である書類審査は通ると思っていたが、まさか、二次審査、三次審査まで通過し受かるとまでは思ってもいなかった。




「え、嘘!!凄いじゃん!ゆう、おめでとう!!!」


それからのゆうは忙しかった。
歌やダンスの練習に行ったり、初めて出演したドラマでは、演技が評判になり俳優での仕事が増え始めた。



地方に住んでいたゆうは、高校入学と同時に仕事から通いやすい東京に家族と共に引っ越す事になった。






「さよ、また会えるから会いに行くから、そう泣くなよ」

そう言うゆう自身も悲しそうな顔をしていた。


「だって〜うっう、、」

ゆうが引っ越す当日、笑顔で見送ろうと思ってはいたものの、いざゆうの顔を見ると悲しみが込み上がってきた。


そうして別れた私達であったが、離れてからもしばらくは、ゆうとほぼ毎日のようにその日あった事やどうでも良い事など連絡を取り合っていた。


だけど、ある日から突然ゆうとの
連絡が取れなくなった。