君の真っ白な嘘

 始まりは雄二からの電話だった。
「真也、起きてる?今から俺の彼女紹介したいんだけど」日曜日の朝10時、雄二の電話で起こされた俺は機嫌が悪かった。
「今かよ。昨日にでも言っといてくれよ」
「まぁまぁ、いいじゃん。どうせ用もないだろ」イラっとはしたが、事実だ。
 雄二が唯一の友達である俺には彼女なんているはずもなく、スケジュールだって真っ白だ。
「どこに行けばいいんだよ」
「とりあえず駅前に来て。2人で待ってるから」
 大きくノビをして、ベッドから足を下ろした。スマホと少し水の入ったコップを手に取り、ドアを開けて階段を降りる。
「あら、早いわね」コップに新しい水を入れていると、母に声をかけられた。
「10時なんてむしろ遅いだろ」
「あんたにしては、よ。どっか行くの?」
 歯磨きをしに、洗面所に向かいながら
「雄二の彼女のお披露目会」と吐き捨てるようにいうと、プッと吹き出して、
「あぁ、いつもの。今回はどんな彼女かしらね」
 そう、雄二は女性を見る目がないのだ。前の彼女はストーカー気質で、その前はいわゆる地雷系というやつだった。こんな風に毎回雄二は僕に彼女紹介をしているのだ。いい思い出はひとつもないけれど。
 彼自身は割とイケメンなのに、まぁ、だから色んな女子が寄ってくるんだろうけど、もっといい女子がいるだろうに、と思わせてくれるような女子だらけだ。
 顔を洗って、新しい服に着替え、ネックレスを首につけ、鞄を手に取った。
「じゃあ、行ってくるね」母に一言声をかけて家を出た。
 しかし、今回はどんな子なんだろうか。と、少し楽しみにしている自分もいる。毎回強烈すぎて、逆に面白いのだ。
 雄二の彼女について色々考えているうちに駅が見えてきて、雄二がこちらに手を振る姿も見えてきた。
 僕も手を振り、
「ちょっと遅くなった」と言うと、
「いえ、すみません。呼び出してしまって。はじめまして、私、雄二くんの彼女の瑞希です」
 綺麗な声が聞こえた。なんだか、人の心まで浄化してくれるような、そんな声だった。
 目の前には、今まで見たことのないような綺麗な女性がいた。ボブより少し長い黒髪で、大きな目に綺麗な鼻に、少し口角の上がったピンク色の唇。そして透き通るような白い肌。僕と同じくらいの身長で白いブラウスにジーンズを着た姿。
 風が吹いた。
 なぜかわからないけど、僕の心に風が吹いた。
 息をするのも忘れるくらい、彼女を見つめていた。
 これが僕と彼女の最初の出逢いだ。