一方フィーナは、カミロに揉みくちゃにされながらこれからの事を考えた。
 彼の想いを受け取ったものの……実は結婚に際して多くの人を煩わせることに、かなりの申し訳なさを感じている。ディレットは伯爵夫人、決して暇な人ではない。養子先にだって、面倒をかけることだろう。
 
「あの……結婚してもしなくても、私は引き続きトルメンタ伯爵家にお世話になるのですから。私達、もしかすると別に結婚せずともよろしいのでは」
「だめだ」
「でも、私のせいで皆さんのお手を煩わせてしまって」
「だめだ、絶対に結婚する」

 カミロはフィーナの頭を撫でた。先程までとは打って変わって、やさしく……子供に言い聞かせるように。

「フィーナは家族が欲しかったのだろう?」

 フィーナはずっと、自分だけの家族が欲しいと願っていた。カミロに望まれたことで孤独は消え去ってしまったけれど、彼は知っている。フィーナが、家族を切望していたことを。
 
「俺は、ちゃんと家族になりたい」
「カミロ様……」
「一生、お前と家族でいたい」

 孤独だったフィーナに、家族ができる。それはずっとそばで見守っていてくれた人。

「──はい、私もです。カミロ様」

 こんなに自分を必要としてくれる人は、世界にただ一人だけ──

 フィーナの返事に安心したカミロは、彼女の頬へと顔を寄せた。至近距離で視線が絡まると、引き寄せられるように唇は重なって。フィーナは覚悟して目を閉じた。



 (もしかしたらカミロ様、一生こうだったりして……)

 終わらないキスの嵐に、冷めてゆくハーブティー。
 彼の暴走は留まるところを知らない。

 フィーナは一抹の不安を抱きながら、永年の想いに身を委ねる。
 やさしいキスは、今夜も二人を幸せへと導いた。



【完】