フィーナがそう言った途端、カミロの眉がピクリと上がった。
 けれど、フィーナだって治まらなかった。

「誰かと結婚? お前が」
「そうです、私、九回もお見合いしました。カミロ様が止めたりさえしなければ、その中の誰かが私と結婚してくれたかもしれないじゃないですか」
「そうだな。九回見合いをして、俺で十人目だ」

 カミロは、突然フィーナの手を掴んだ。
 怯むフィーナを捉えるのは、いつになく熱を持ったアイスブルーの瞳。

「お前は十人目の相手を好きになるんだろう」

 カミロは半ば強引にフィーナを引き寄せると、その身体を自身の胸へと抱き止めた。

 抱きしめられている。あの、カミロに。
 触れ合う距離に、互いの鼓動を感じて。
 頭上から降る彼の熱い息に、身体中がぞくぞくとした。

「こうやって、相手を本気にさせると言った」
「い、言いましたが」
「お前も早く本気になれ」

 身じろぎしても、背中に回されたカミロの腕がフィーナの身体を逃がさない。まるで『俺は本気だ』と、全身で伝えるように。
 なぜ? カミロが?
 本当に……本気で? 

「こんなことは、俺で終わりにしろ」



『こんなこと』。
 
『こんなこと』じゃない。
 決して、『こんなこと』なんかじゃない。

 カッとなった。フィーナが繰り返してきたことを、まるきり否定されたような気がして────カミロの胸を思いきり押しのけた。

「カミロ様には分からないんですよ! 私の気持ちなんて!」

 蜂蜜色の瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出る。
 彼の部屋から、フィーナは飛び出した。背後から名を呼ぶ声にも振り向かず、ただ一人になりたくて。

 涙は止まらない。
 何のものかも分からぬ動悸は強くなるばかり。
 フィーナは自棄になって、自室へと駆けたのだった。