(ああ……あぶなかったわ……)

 翌朝。フィーナはいつものように掃き掃除をしながら考えた。

 (あの笑顔は凶器だわ)

 不意打ちで向けられたカミロの笑顔。十二年間トルメンタ伯爵家にいて、彼のあのような顔を見たのは初めてだった。

 ただでさえ美しく整った容姿をしているのに、不意に包み隠さぬ笑顔を見せられたら。それだけで世の女性は皆ときめくのではないだろうか。

 だから、この胸の高鳴りは決しておかしくない。
 自然なことだ。自然なこと……。
 フィーナは必死に、自身の胸に言い聞かせる。

 (結局、カミロ様には聞けずじまいだったな……)

 昨晩は、街で聞いたカミロの行動について本人に確認できぬまま、ばたばたとカミロの部屋を後にした。カミロの笑顔の破壊力で、フィーナの心臓がそれどころでは無かったためだ。

 あの笑顔を見たあとでは、彼を問い詰めるのもはばかられてしまって……しかし、このまま真偽をはっきりさせなければ、フィーナの憂いが晴れることは無い。

 (昨日みたいに、誰かに話を聞けないかな)

 何せ、フィーナは九回も見合いを繰り返している。ということは、見合い相手は九人もいたのだ。そのうちの誰かから話を聞くことが出来たなら?

 もしかすると、昨日会った一人目の男がどうしようもない浮ついた男だったから、カミロが特別に釘を刺してくれたのかもしれない。

 (うん……そう信じたい)

 他の見合い相手にも話を確かめれば、それも明らかになるかもしれない。
 居てもたってもいられないフィーナは、身支度を整えると二人目の見合い相手の元へと向かったのだった。