○朧夜の自室(夜)

重苦しい空気感で、部屋全体に影がかかっている。

朧夜「はぁ……」
朧夜はソファーに座り、ソファーの背の方に頭をのけぞらせて、目元を腕で覆いながら溜息を吐き、下唇を噛む。
朧夜(俺、最低だ……)
※この「最低」は「自分から招いた真純を酷い態度で追い返してしまったこと」「真純に対してめちゃくちゃにしたい(=思い切り血を吸いたい)と思ってしまったこと」からくる。

コンコンコン
母『朧夜ちゃん、入るわね』
ドアの向こうからノック音と朧夜の母の声が聞こえてくる。そして、朧夜の母が部屋に入ってくる。
母「……真純ちゃんと何かあったの?」
真剣な表情で朧夜に尋ねる母。
朧夜「……」
しかし、朧夜は無気力に寝そべったまま答えない。
朧夜の母は朧夜の隣移動して座る。

母「……真純ちゃんはあなたの彼女?」
何も答えない朧夜に対して、異なる質問をする母。
朧夜「……違う」
沈黙の後、静かに否定する朧夜。
母「あら、違うのね。でも朧夜ちゃん、真純ちゃんのこと気になってるんでしょ?」
ぐいっと核心に迫る朧夜の母。茶化す雰囲気ではなく、真面目な表情。

しばらくの沈黙の後、朧夜は仰け反っていた上体を起こす。
朧夜「……彼女から、甘い匂いがするんだ」
そして、真純と匂いを思い返すように口元を手で覆う。
母「まあ……!」
すると、ぱあっと顔を明るくさせる朧夜の母。口元に手を当てて、驚いた表情を見せる。
母「朧夜ちゃんよく聞いて。真純ちゃんは、あなたの"ソウルメイト"よ」
朧夜「ソウルメイト?」
訝しげな朧夜。
母「あなたにはまだ話してなかったわね。私たち吸血鬼一族には、それぞれ運命の相手が存在するの。それがソウルメイト」

ここから説明シーン。
この時、デフォルメイラスト等で【ソウルメイト】の説明を行ってもいいし、母の身振り手振りでも○。
朧夜は黙って聞いている。

母「私たちは、二十歳になるまでにその運命の相手に出会うと言われているわ」
朧夜「じゃあ、母さんも?」
母「うふふ、そうよ。私もあなたのお父様がソウルメイトなのよ♡」
朧夜の父の顔を思い浮かべてうっとりする朧夜の母。
小さなコマに父を描写しても良い。

朧夜の父:朧夜によく似たイケメン。髪は黒髪。やはり若見えする。大企業の社長で国内を飛び回ってるため、たまにしか帰ってこない。

母「それでね。私たちがどうやって、ソウルメイトを知るかというと、"匂い"なの」
鼻を指さす朧夜の母。
朧夜「……」
朧夜は黙って話を聞いている。
母「ソウルメイトはね、とても甘くて美味しそうな匂いがするのよ」
甘美な匂いを想像してうっとりする母。
朧夜「それじゃあ、白波さんが、俺の……」
顔が紅く染まる朧夜。たまらない表情。
この時、朧夜の脳裏に真純の笑顔が思い浮かぶ。

母「何があったのかは分からないけれど、真純ちゃんとしっかり話をするのよ。……辛そうな顔をしてたわ」
朧夜「……」
辛そうな顔で考え込む朧夜。
母(朧夜ちゃん、頑張ってね)
それ以上は何も言わない朧夜の母。その内心で、朧夜の恋路を応援する。

ここで場面転換。

○翌日・高校二年一組教室(朝礼前)

真純(ね、寝れなかった……)(私ったらなんて恥ずかしいことを……!!)(朧夜くんが来たら、昨日のことを謝ろう……)
ずーんと暗い表情の真純。寝不足でうっすら隈が出来ている。
皐月「まーすみ! おはよう! ってあれ、なんかあった?」
にっかり挨拶をしてくれる皐月。真純の表情を見て心配そうな表情を浮かべる。
真純「ううん……大丈夫……」
明らかに「寝不足です」といった表情で否定する真純。
皐月「全然大丈夫そうじゃないけど!?」
ますます心配になり、真純の肩を掴む皐月。
日常の一コマのような感じ。

この後、一限目→三限目→六限目というように、朧夜が来ないことを気にする真純を三コマ等で描写。

○一限目の授業中(国語)
真純がちらりと朧夜の席を見るが、そこは空席。朧夜が学校に来てないことに対してますます負い目を感じる真純。
真純(朧夜くん……)

○三限目の授業中(英語)
一限目の時と同じく、朧夜の席を気にするも、そこは依然として空席のまま。机の上も空っぽ。
ずーんと落ち込む真純。

○六限目の授業中(数学)
またしても、朧夜の空席を気にしまくる真純。
加藤「白波ー! 話聞いてるのかー!?」
真純「ひっ!? あっ、はい! 聞いてます!」
鬼の加藤に指摘され、真純はピンと立ち上がる。その様子をクラスメートに笑われ、顔が紅くなる真純。
真純(私ったら、もう! 何やってんの……!)
恥ずかしがる真純。

○朧夜の自宅前(夕方)

朧夜の豪邸の前に立ち尽くす真純。やはり、気分が落ち込みずーんとしている。

真純(結局家まで来ちゃった……)
朧夜の様子を見に来るも、中々インターホンを押す踏ん切りがつかない真純。ただただ豪邸の前でぽつんと立ち尽くす。
真純(ええい! いけっ、私!)
覚悟を決めてインターホンを押す真純。
すると、朧夜の母が出てくれる。
朧夜の母「はい」
真純「こんばんは。クラスメートの白波真純です。その、朧夜くんに……」
朧夜の母「あら、真純ちゃん! ちょっと待っててね!」
インターホンの通話が終わり、すぐに玄関の扉が開く。
朧夜の母「真純ちゃん、いらっしゃい」
にこにこ笑顔の朧夜の母。
真純「す、すみません! 突然来てしまって……」
恐縮する真純。
朧夜の母「ふふ、気にしないで。朧夜ちゃんもきっと喜ぶわ」
両手を合わせて微笑む朧夜の母。
朧夜の母「さあ、入ってちょうだい」
真純「お邪魔します……」
朧夜の母に促され、中に入っていく真純。

場面転換。

○朧夜の自室

ベッドに横になり、上体を起こしている状態の朧夜。まだ【吸血鬼モード】ではない。
制服ではなく落ち着いた部屋着。

ガチャ
朧夜の母「朧夜ちゃん、真純ちゃんが来てくれたわよ。さ、真純ちゃん」
母がドアを開き朧夜の部屋に入る。真純はその後ろに控えている。真純が部屋に入るのを確認すると、朧夜の母は外に戻っていき、部屋の中には朧夜と真純が二人きりになる。

真純「朧夜くん、いきなりごめんね……やっぱり、昨日のことを謝りたくて……」
立ったまま眉を下げて話す真純。
朧夜「……来てくれてありがとう、白波さん。俺も謝りたいことがあるんだ」
真純を見上げて話す朧夜。体調が悪そうに見える。

真純「……隣、座ってもいい?」
朧夜「うん」
許可を貰い、ベッドサイドの椅子に腰掛ける真純。
朧夜「ごめん。今日学校に行くつもりだったんだけど、今日も吸血衝動が止まなくて」
苦しそうな表情の朧夜。吸血鬼としての本能を我慢してるように見える。
真純「ううん」
大丈夫だよ、という意味を込めて首を横に振る真純。
朧夜「昨日もごめんね。突然追い返して……白波さんは、俺のことを助けようとしてくれたのに」
申し訳なさそうな顔をする朧夜。シーツを握る手に力が込められている。
真純(朧夜くん、辛そう……)
心配そうな真純。
真純「私もごめん。朧夜くんの気持ちも考えずに、急に変なことを言って……嫌だったよね、私の血とか」
俯きがちに話す真純。
朧夜「……っ、違う!!」
突然語気の強い朧夜、焦ったような表情。
真純「え……?」
真純はその声に驚き、目を見開いて朧夜を見る。
朧夜「白波さんのことが嫌なんじゃなくて、むしろ……っ、白波さんの血が欲しくて堪らないんだ……それで、我慢できそうになくて……酷くしてしまいそうで……それじゃあ、ダメだって思ったから」
本心を吐露する朧夜。色々我慢している表情。
真純「そう、なの……」(よかった……嫌いになられたとかじゃなかった……)
驚きつつ安堵する真純。
真純(じゃあ、尚更……)
ごくりと固唾を飲み、決心する真純。
真純「朧夜くん、我慢しなくていいよ。今の朧夜くん、すごく辛そう。……私は、朧夜くんの力になりたいの!」
手を自分の胸に添えて、朧夜を真っ直ぐ見つめて言う真純。その瞳から本気だということが分かる。
朧夜はそんな真純に対して瞠目し、息を飲む。

真純(それだけじゃない。私以外の血を吸って欲しくないっていう、独占欲もきっとある……)
心の底の暗い欲に気がつく真純。

朧夜「……本当にいいの? きっと痛いし、白波さんを傷つける」
真純「うん。私は平気。むしろ……朧夜くんを助けられるなら嬉しい……」
真純は幸せそうに微笑む。とても綺麗な笑顔。
朧夜「……っ」
その言葉と表情に朧夜の理性が焼き切れる。
【吸血鬼モード】に変化。
そして、朧夜は我慢できず、真純の腕を掴み、服を引っ張って白い肌を露にさせる
※この場面、腕を吸血するか、首筋を吸血するか悩みどころ。このシナリオでは腕のパターンで書いているが、首筋でもよい。

そして、朧夜は真純の腕を取り、その裏側に噛み付く。
真純「……!」
ピリリとした痛みが走り、ビクリと肩を揺らす真純。
朧夜の鋭い二つの牙が皮膚を突き刺し、血を吸っていく。
朧夜は恍惚の表情を浮かべてうっとりと目を細める。
真純(朧夜くんが、私の血を……)
そんな朧夜の様子を見てドキドキが収まらない真純。
真純(あ、)
ふと、こちらを向いた朧夜と目が合う真純。その紅く鋭い瞳が真純を捕らえて離さず、挑発的な笑みを浮かべる。
真純「〜〜っ!」(その顔は反則だよ……!)
真純はきゅっと唇を噛み締めて、高鳴る鼓動を感じる。

数十秒の後、真純の腕を解放する朧夜。その白い腕には小さな紅い吸血痕が残っている。
朧夜「白波さん、ありがとう。美味しかった」
血を吸ったことによって元気になり、艶めいた頬笑みを浮かべる朧夜。
真純「う、うん」
対して、まだドキドキ心拍数上昇中の真純。
朧夜「……やっぱり、痛かった?」
眉を下げて真純の顔をのぞき込む朧夜。
真純「ううん! 全然大丈夫……!」
慌てて否定する真純。朧夜は胸を撫で下ろす。

真純(言わなきゃ……!)
ここで、何かを決意する真純。
真純「その……これからも、朧夜くんが吸血衝動が抑えられなくなった時は……他の人の血じゃなくて私の血を吸って」
恥ずかしいながらも朧夜の目を見てしっかりと告げる。真純の胸に独占欲が灯っている。
朧夜「でも、白波さんばっかりしんどい思いを……」
眉をしかめる朧夜。
真純「じゃ、じゃあ、その代わりに私にケーキを作って……!!」
ピンと指を立てて提案する真純。
朧夜「え?」
真純「この前、朧夜くんがくれたケーキ。本当に美味しかったの! いっぱい食べたいの! どう? 等価交換でしょう?」
朧夜を説得するため、身振り手振りで一生懸命力説する真純。
朧夜「……ふふっ」
そんな真純に対して、つい吹き出してしまう朧夜。
朧夜「わかった。俺がたくさん美味しいケーキを作る。……だから、俺が我慢できなかった時はお願い」
観念する朧夜。困ったような頬笑み。
真純「うん!」
嬉しそうな笑みを浮かべる真純。

朧夜「あと……白波さんも俺以外に血を吸わせたらダメだよ」
にやりと笑う朧夜。
真純「へっ!? あっ、もちろん……!!」
必死にこくこく頷く真純。
朧夜「ならよかった。約束ね」
朧夜は微笑み、真純に向かって小指を差し出す(指切りのポーズ)。
真純「約束……」
真純もおずおずと小指を差し出す。すると、朧夜が真純の小指に指を絡めて、ぎゅっと握る。そして、真純の小指にちゅっとキスをする。
朧夜「これでよし」
約束を交わし、満足気に微笑む朧夜。
一方、真純は動揺しまくりで置いてけぼり。
真純(ま、魔性だ……!!)
そして、真純はドキドキが止まらないという表情を浮かべて朧夜を見る。
すると、朧夜は「ん?」と微笑んだまま首を傾げるのだった。


5話終了