○空き教室(家庭科室)

結局、歴史の授業をサボってしまった真純と朧夜。
壁か台などに寄りかかって、二人並んで座っている。
お互い気恥しげな表情をしている。

♪キンコンカンコン
授業終わりのチャイムが鳴り、ハッとする二人。

朧夜「授業終わったみたいだね」
呟く朧夜。
真純「そ、そうだね……」
頷く真純。
こっそり朧夜の表情を盗み見ると、朧夜が「どうしたの?」と微笑み返してくる。

真純(はっ……! この状態の朧夜くんが教室に戻ったら……)
【吸血鬼モード】の朧夜が教室に戻ってきて、クラスの女子たち(目が♡)のハートが撃ち抜かれる様子を想像する真純。
真純(そんなの、ダメーッ!!!)
ぶんぶんと顔を横に振る真純。

真純「朧夜くん! ここを出たらいつものけだるげモードに戻って!」
急に身を乗り出して、真剣な表情で訴える真純。
朧夜「? どうして?」
不思議そうな朧夜。
真純「えっと……吸血鬼モードの朧夜くんは危険だからっ!」(ほんとは、私が見られたくないだけだけど……)
なんとか説得する真澄。
朧夜「わかった、頑張ってみるね」
朧夜は不思議がりつつも頷く。

真純(よかった〜〜)
安堵する真純だが、今度は別の不安が襲ってくる。
真純(……このまま戻ったら、もう二人きりになれるチャンスなんて訪れないかもしれない……)
心のなかで覚悟を決める真純。

真純「そ、その……よければ、今日一緒に帰らない……? ほら、家も近いし……」(今日は皐月は委員会……)(それに、また朧夜くんが倒れちゃったら大変だ……)
勇気を振り絞って提案する真純。上目遣いで可愛い顔。
朧夜「いいよ」
特に悩む様子もなく、微笑んで頷く朧夜。
真純「えっ、いいの!?」(うそ!?!?!?)
驚く真純。断られると思っていたので、内心驚きまくり。
朧夜「うん」
なんでそんなに驚いてるのかわからない、といったような不思議な顔をする朧夜。
真純(やったーっ!!!)(好きな人と帰れるなんて……!)
興奮して頬を抑える真純。ドキドキしている。

朧夜「そろそろ戻ろうか」
朧夜はそう言って立ち上がると、真純に向かって手を差し出す。
真純「えっ?」
目を見開く真純。
朧夜「ほら」
顎をくいと動かして、手を取ることを促す朧夜。
真純「あ、ありがとう……!」
真純は照れながら、朧夜の手を取り立ち上がる。
真純(朧夜くんって、無自覚タラシ……!?)
内心でざわめく真純。

場面転換。

○高校二年一組教室(鬼の加藤の授業後)

休み時間に入り、クラスメートはそれぞれ雑談中。
朧夜と真純は二人で空き教室から帰ってきたところ。

皐月「もー遅い! 全然戻ってこないからヒヤヒヤしまくりだったんだよー!」
入口付近で真純を出迎える皐月。
真純「ごめんね……?」
両手を合わせて謝る真純。
皐月「いいけどさぁ……」
皐月は困ったように笑い、回想に入る。

(皐月の回想開始)

考える皐月の頭から出る、モヤモヤ吹き出しなどの中に描写してもよい。

加藤「白波と桜川はどうした! 今日来てるだろ! サボりかー!?」
ジャージ姿の鬼の加藤が名簿を持ちながら怒っている。

加藤:こう見えて数学教師。黒髪短髪三十代の男。怒ると鬼みたいに怖いから、鬼の加藤と呼ばれている。

皐月(真純〜! ヤバいよ〜!)
怒る加藤を見て冷や汗の皐月。皐月は真純の右斜め前の席で、ちらりと真純と朧夜の空席を見る。
一晃「センセー! 白波さんと桜川くんは体調悪くて保健室に行きましたー」
身を乗り出してピシッと挙手する一晃。クラスの中心、ハキハキ系男子。
加藤「そうなのか!? そういうことははやく言え! じゃあ、授業に入るぞー」
朧夜と真純が体調不良と聞き、怒りが収まる加藤。黒板に文字を書き始める。
皐月(相田、やるじゃん……!)
安堵の息を吐き、一晃を見る皐月。
そんな皐月に向かって、一晃はウインクをする。

(回想終了)
場面が現在に戻る。

皐月「相田に礼言っときなよー」
一晃「そーそー、俺のおかげね。てか朧夜ぁ、白波さんと仲良かったんだ?」
皐月の後ろから、タイミングよく一晃がやってくる。
一晃はニヤニヤしながら朧夜に近づいていき、肩を組み、つんつんと朧夜の頬を続く。
朧夜「うん、まあ」
されるがまま、いつもの無表情で頷く朧夜。【吸血鬼モード】が解除され、普段の気だるげモードに戻っている。

皐月「真純〜? あんた達、一体何があったのよ。すっかり親密みたいだけど」
一方、皐月もニヤニヤしながら真純に耳打ちする。女子の内緒話のような感じ。
真純「えっと、色々あって……」
頬をかいて曖昧に濁す真純。
皐月「ふぅん。ま、今度の女子会で、その色々とやらを教えてもらいましょうかねぇ」
腕を組んでフフンとにやける皐月。
真純「え〜」(血を吸われたなんて言えない……!)
複雑な表情の真純。

場面転換。

○高校二年一組の教室(放課後)

放課後になり、帰る準備をしたり雑談したりするクラスメートたち。
いつも一緒に帰っている皐月は先に文化委員会に行ってしまった。

真純は自分の席に座り、朧夜に吸われた指の傷(もう塞がっている)をぼうっと眺めている。

朧夜「白波さん、帰ろう」
学生鞄を持った朧夜が真純の席に近寄ってくる。
真純「う、うん!」
慌てて鞄を持ち、立ち上がる真純。
授業をサボった二人ということもあり、クラスメートは二人に注目する。その視線には好奇あり、嫉妬もあり。

真純(好きな人と一緒に帰れるなんて……)
ドキドキしながら、朧夜と一緒に教室を出ていく。

○朧夜の家の前(夕方)

朧夜の家の前まで帰ってきた二人。
一度気だるげモードに戻ってしまったからか、教室を出てからも朧夜は普段の眠たそうな無表情。
学校の話やケーキの話とかでぎこちないながらも、和やかに過ごすことができた。

真純「それじゃあ、朧夜くん。また明日」
朧夜と向き合い、手を振る真純。
朧夜「うん、また……あ、」
それに答える朧夜だが、途中で真純の後ろに誰かを見つけて声を上げる。

真純「どうしたの?」
朧夜の母「あら、朧夜ちゃんじゃない……!」
真純が問いかけると同時に、真純の後ろから女の人の声が聞こえる。
真純が振り返ると、そこには大人っぽいシックなワンピースを着た女の人が立っていた。正体は朧夜の母。

朧夜の母:亜麻色のふわふわロングヘアのスレンダーな女性。かわいいというより妖艶で綺麗な顔立ち。朧夜によく似ている。吸血鬼。年齢不詳。

真純(朧夜ちゃん……!? 誰だろう……?)(朧夜くんによく似てるし、お姉さんかな?)
真純がそんな風に思っていると、朧夜が口を開く。
朧夜「母さん、おかえり」
朧夜は女の人にそう呼びかける。
真純「えっ!?」
(か、母さん……!?!? お姉さんじゃなくてお母さんなの……!?)(若過ぎる……!!)
あまりの若さに驚く真純。
朧夜「白波さん、この人俺の母さん」
紹介してくれる朧夜。
真純「え、えと……初めまして、白波真純です」
驚きつつも、とりあえずぺこりと挨拶をする真純。
すると、朧夜の母は「あらあら」と驚いて真純を見る。
朧夜母「初めまして、母です♡」
そして、微笑んでそう言った。
その笑みが【吸血鬼モード】の朧夜の微笑みによく似ている。

朧夜母「まさか、朧夜ちゃんが女の子と帰ってくるなんて……! さぁさぁ、上がってちょうだい。大したおもてなしはできないけれど……」
目を輝かせて真純を見る朧夜の母、とても機嫌がいい。
真純「あ、いえ……」
どうしていいか分からず、ドギマギする真純。
朧夜「もし時間があれば寄っていきなよ」
否定するかと思いきや、朧夜も真純を誘ってくる。
真純「えっ」(待って待って、どういうこと……!?)(昨日に続けて、朧夜くんの家に招待されるなんて……!)
真純はパニックになりながらも、こくりと頷く。
混乱する真澄と、満足そうな朧夜の母と朧夜のコマを置いて、場面転換。

○朧夜の自室

ソファに並んで座る真純と朧夜。
机の上には朧夜の母が用意してくれたお茶菓子が並んでいる。
場面は、朧夜の母がプレートを腕に抱えて部屋から出ていこうとするところからスタート。

朧夜の母「それじゃ、ごゆっくり♡」
にっこり微笑み、朧夜の部屋を出ていく朧夜の母。
真純「ありがとうございます……!」
礼を言って見送る真純。

お互い沈黙して少し気まずい空気になる。
ソファーに並んで座るが、二人とも正面もしくは斜めを見ており、目を合わせない。

真純「……朧夜くんは、血が足りないの?」(吸血鬼用の輸血パックとか飲んでたけど、それだけじゃ足りないのかも……)
空気に耐えきれず、おずおずと尋ねる真純。
朧夜「あー、普段は週一回くらい血を飲む程度で済むんだけど……最近は吸血衝動が激しくなってきて」
額に手を当てて困ったように話す朧夜。
真純「そうなんだ……」(昨日の朧夜くん、いつにも増して辛そうだったもんね)
真純は昨日の朧夜の行動に納得する。
そして、【朧夜が真純の指から流れる血を吸った時の光景】を思い返す真純。
真純(私が朧夜くんを助けられるなら)
膝の上でぎゅっと手を握り締めて、覚悟を決める真純。

真純「朧夜くん……」
真純が朧夜に向かって囁く。熱っぽい雰囲気
朧夜「白波、さん?」
いつもと違う真純にドキリとする朧夜。動揺して瞳が紅く染まりかける。
すると、真純は朧夜の方を向いて、右側に垂れた三つ編みを左に寄せる。そして、ワイシャツを開いて右肩をさらけ出す。
真純「私の血を吸っていいよ」
憂いげに言う真純。頬は赤く染まり羞恥から瞳が潤んでいる。
朧夜「は……」
衝撃を受ける朧夜。ドクリと脈打つ胸元を押さえる。その表情はすっかり【吸血鬼モード】に変化して、瞳は紅く、薄く開いた唇の間から鋭い牙が覗く。

緊張感のある沈黙のコマ。

朧夜「……白波さん、ごめん。今日はもう帰って」
やがて、口元を押さえた朧夜が小さな声で告げる。
俯いて前髪のせいで表情が見えない朧夜。
この時の朧夜の心理は、「真純のセリフに煽られてしまい、彼女の近くにいたら我慢出来ずに思い切り血を吸ってしまいそうだから、距離を置かないと……」というもの。
真純「あ……朧夜くん、ごめん……」
かぁっと顔が紅くなる真純。
朧夜(私、最低だ……)(朧夜くんの気持ちも考えないで、変なこと言って……)
朧夜の冷たい態度に胸が痛み落ち込む真純。

重苦しい空気の中、真純は青白い顔で鞄を取り、動揺を感じられる足取りで朧夜の部屋を出ていく。朧夜は閉じていくドアを切なく紅い瞳で見つめるのだった。

真純(私のバカ……!!)
涙を堪えながら玄関に向かって廊下を歩く真純。その途中、リビングから朧夜の母が顔を出す。
朧夜の母「あら、真純ちゃん、もう帰っちゃうの?」
不思議そうな朧夜の母。
真純「すみません……っ! お邪魔しました……!」
真純は泣き顔を見られないように、素早くぺこりとお辞儀をして朧夜の家を出ていく。
朧夜の母「真純ちゃん、ぜひまた来てねっ!」
朧夜の母は首を傾げつつ、真純を見送るのだった。

○帰り道・暮れ方

真純(朧夜くん、怒ったよね……)(ううっ、調子に乗りすぎちゃった……)
泣きそうな顔で落ち込む真純。涙を堪えながら、走って家に帰る。


4話終了