○高校二年一組の教室(朝礼後)

次の授業までの休み時間で、クラスメートたちは友達と雑談中でザワザワしている。
朧夜はまだ来ていない。

真純(朧夜くん、どうしたんだろう……)
空席の朧夜の座席を見つめて、心配そうな表情を浮かべる制服姿の真純。
真純(昨日は倒れてたし、やっぱり体調が良くないのかも……)
朧夜のことが心配で、うーんと唸る真純。

ガラガラガラ
教室の後ろのドアが開かれ、制服姿の朧夜が入ってくる。
朧夜は、いつも通りの眠たげな無表情である。

真純「あ、朧夜く……」
一晃「朧夜ー! 遅かったじゃん! また寝坊かぁ?」
真純が声を掛けようとしたところで、大声の一晃と被る。
一晃は朧夜に近寄って、肩に腕を回して絡む。
朧夜「うん、まだ眠いけど」
欠伸をしながら自分の席へ歩いていく朧夜。
途中で朧夜と真純は、ぱちっと目が合う。
その時、朧夜は無表情のまま真純に緩く手を振る。真純も朧夜に向かって手を振る。

真純(これは夢……!?)(好きな人と朝の挨拶ができちゃうなんて……)
嬉しそうな表情で机に頬杖を着く真純。
この間に、朧夜は自分の席に着席。

皐月「真純、どうした〜? ニヤニヤして」
皐月が意地悪な笑みを浮かべながら、真純の席に近づいてくる。
真純「あ、いや……今日のお弁当の中身を考えてて」(朧夜くんのことを考えてたなんて言えない……)
誤魔化す真純。
皐月「ははっ、この食いしん坊さんめ!」
皐月は明るく笑い、真純の頭を撫でる。
真純「だって〜……」
真純も撫でられて楽しそうに笑う。

この時、真純と皐月のやり取りをちらりと盗み見ている朧夜を小さく描写する。

真純「そういえば、今日の教科書って……いたっ」
机の上に出した教科書を開こうとする真澄。
その時、教科書のページで指を切ってしまう。
皐月「どうした?」
真純の指を覗き込む皐月。真純の指先から血が出ている。
真純「ちょっと指切っちゃったみたい」
痛そうな表情で言う真純。
皐月「うわっ、痛そー……保健室行く?」
真純「これくらい平気だよ〜」
首を横に振る真純。

ガタンッ!
突然大きな音を立てて立ち上がる朧夜。うつむき加減で表情が見えない。

一晃「朧夜、どうした?」
一晃、真純、皐月は驚いたように朧夜を見る。ザワザワと雑談していた他のクラスメートも、「なんだ?」「どうした?」と朧夜に注目する。

真純「朧夜くん……?」
皆の注目を浴びる朧夜は、なぜかゆらゆらと真純に近づいてくる。
朧夜「ちょっと来て」
低い声で告げる朧夜。読めない薄暗い表情。
前髪からのぞく瞳がギラついている。
真純の腕を掴んで引っ張り、教室を出ていこうとする。

真純「朧夜くん、ちょっと待って……! どうしたの……!?」
焦った表情の真純は、朧夜に腕を引っ張られながら教室を出ていく。

皐月「えっ、なに!?」
一晃「おい、朧夜! 待てって!」
突然のことにわけがわからいと言った様子の皐月と一晃。二人は、真純と朧夜を追いかけようとする。

○教室から出て廊下に移る

真純(様子がおかしい……)(もしも吸血鬼関連なら、他の人は追ってこない方がいいかもしれない……)
真純「皐月、相田くん! ここは私に任せて……!」
腕を引かれながら後ろを振り返り、皐月と一晃に向かって叫ぶ真純。
焦った様子の皐月と一晃は互いに顔を見合せて、そしてもう一度真純を見る。
皐月「わかった! 次の授業、鬼の加藤だからはやく戻ってきなよー!」
一晃「朧夜ー! 女の子には優しくしなきゃだめだぞー!」
朧夜と真純に向かって叫ぶ皐月と一晃。
真純はそんな二人に頷き、そして、朧夜の方へ向き直る。
真純視点では、朧夜の顔は見えず、背中しか見えない。
対して、朧夜はずっと無言で早歩き。

真純(朧夜くん、どうしちゃったの……?)
心配そうに眉を下げる真純。

そのまま二人は廊下を進んでいき、誰もいない空き教室へ入っていく。

○空き教室

家庭科室のようなイメージ。
照明は付いておらず、やや薄暗い。
空き教室に到着して中に入り、扉を締める朧夜。
しかし、真純の腕は朧夜に掴まれたまま。
朧夜と真純は向き合った状態で立つ。
この時、朧夜は俯いていて、前髪で表情が見えない。

真純「朧夜くん……?」
困惑する真純。
真純「えっ!?」
すると突然、朧夜にぐいっと引き寄せられる。
そして、朧夜は真純の手を取り、自分の口元に引き寄せて、指の切り傷をぺろりと舐める。そして、朧夜は傷から滴る血をちうっと吸った。
真純「朧夜くん、なにして……っ!?」
驚愕に目を見開く真純。
朧夜「あまいね」
真純の手をパッと離し、親指で自分の唇をなぞって妖艶に微笑む朧夜。
朧夜の瞳の色が紅く染っている。
真純(!?!?!?)
舐められた指を庇うように胸元に引き寄せる真純。
脳は混乱状態、頬は紅く染っている。

♪キンコンカンコン
授業開始のチャイムが鳴る。

真純「あ……」
しまった……というように呟く真純。

一方、チャイムの音でハッとする朧夜。
ここで、朧夜は理性を取り戻す。(顔付きが少し変わる演出)
朧夜の目には、怯えた様子の真純が映る。
(やってしまった)というような表情の朧夜。
瞳の色が紅から茶色に戻る。

朧夜「ごめんっ! 俺、最低だ……」
バッと頭を下げる朧夜。
真純「えっ、朧夜くん顔上げて……!」(元の朧夜くんに戻った……?)
オドオドとする真純。
朧夜「白波さん、本当にごめん……俺、自首するから……」
顔を手で覆いながら、ずるずるとその場にへたり込む朧夜。
真純「朧夜くん!?」
真純はぎょっとして、オロオロした後、同じくその場にしゃがみ込む。

○少しの時間経過・同じく家庭科室

調理台を壁にして体育座りする真純と朧夜。
二人の間には少し距離がある。

真純「授業、サボっちゃったね……」(鬼の加藤に怒られる……)
脳内にはデフォルメ泣き顔の真純。
朧夜「ごめん……」
ずっと申し訳なさそうな顔の朧夜。
真純「いや違うの! 朧夜くんを責めてるわけじゃなくて……」
手を振って否定する真澄。
しかし、ますます項垂れる朧夜。

真純(こんな朧夜くん初めて見た……ていうか、昨日から初めて見る朧夜くんばっかりだけど)
神妙な面持ちの真純。

真純「えっと、ここは……?」
真純は周囲を見渡してから、朧夜に尋ねる。
朧夜「……俺のサボり場なんだ。この時間は誰もここに来ないよ」
おずおずと口を開く朧夜。呟くように話す。
真純「そうなんだ」
頷く真純。

真純「……朧夜くん、血が足りてないの……? ほら、吸血鬼みたいだし……」
真純(昨日倒れてたのも、血液不足のせいなのかな……)(私、朧夜くんが吸血鬼だって、すっかり信じちゃってるよ……)
色々考えた末に、意を決して核心に迫る真純。
朧夜はビクリと肩を揺らし、俯いていた顔を持ち上げる。
朧夜「うん……」
そして、真純の手を見て呟く朧夜。
ぽつぽつと事情を話し始める。
朧夜「俺の家系は特殊で、定期的に血液を摂取しないと倒れちゃうんだ。しかも、日差しは苦手だし、夜にならないと力も入らない」
真純(だから、いつも眠そうなのか……!)
朧夜「あとは、血を見たり、飲んだりした後は吸血鬼としての本能が濃く出てきちゃって……」
真純「そうなんだ……」
真純(じゃあ、あの表情豊かな朧夜くんは、吸血鬼モードなのかな)(通りで、いつもと雰囲気が違ったんだ)
朧夜の説明に納得する真純。
その脳裏には吸血鬼モードの朧夜が蘇る。
真純「……ってことは、あの赤いジュースは本物の血ってこと……!?」
朧夜「うん、吸血鬼用の輸血パック」
平然として言ってのける朧夜に驚きが隠せない真純。
その脳裏には、【コウモリマークの書かれた輸血パックをちゅーっと吸って、至福の表情を浮かべるデフォルメ朧夜】が思い浮かぶ。

朧夜「さっきは本当にごめん……今から警察に……」
(ずーん……)って感じの朧夜。
真純「いやいや、全然気にしないで……! 少しでも朧夜くんの助けになれたのなら、むしろ嬉しいよ!」(とてもドキドキしてしまったなんて言えない……)
節操ない自分が恥ずかしくなる真純。顔が紅くなる。
朧夜「本当……?」
真純「本当!」(私の血を吸ったから、今は吸血鬼モードなのかな? 無表情じゃないし)

立ち上がり、スカートの埃を払う真純。
真純は朧夜の腕をぐーっと引っ張って、立たせてあげる。

真純「朧夜くん、そろそろ戻らないと……!」
朧夜「……今から戻っても遅いし、次の授業までサボらない?」
元気を取り戻し、少し挑発的な表情を浮かべる朧夜。
真純はそんな朧夜の表情を見て(吸血鬼モードだ……!)と思う。
真純「たしかに……サボっちゃおっかな……」
朧夜「よし、決まり。俺と共犯ね」
そう言って、意地悪に微笑む朧夜。
真純(朧夜くん、それはずるいってば……!)
その微笑みに何度目かの恋の矢が刺さる真純。


3話終了