○朧夜の部屋
男子高校生にしては広い部屋。
全体的な色使いがシックで大人っぽく、家具は少なめ。最低限のテーブルとソファーベッド、棚、収納程度。
棚の上に赤いジュースのペットボトル有り。
ベッドは黒シーツで大きい。部屋のイメージは吸血鬼。

朧夜は部屋まで真純を案内すると、繋いでいた手を離す。

朧夜「ソファーでちょっと待ってて」
そう言って部屋から出ていく朧夜。
真純「う、うん」
(好きな人の部屋に入っちゃった……!)(やばい、どうしよう!)
落ち着かない様子の真純。
男子の部屋に入るのはこれが初めてである。

真純は色々考えた末に、ソファの隅にちょこんと座る。
ソワソワしながら朧夜が戻ってくるのを待つ。

ガチャ
しばらくして、朧夜が戻ってくる。
手におしゃれなプレートを持っており、そこにはティーカップとショートケーキが盛られたお皿が乗っている。

朧夜「ごめん。自分から言ったけど、どうやってお礼したらいいか分かんなくて……ケーキは好き?」
朧夜は首を傾げて、尋ねる。
真純「す、好きです……!」
思わず敬語になってしまう真純。
朧夜「よかった」
優しく微笑む朧夜。

真純(この夢のようなシチュエーションは、一体なに……?)(朧夜くん、ずっと表情豊かだし……)
未だに混乱しまくりの真純。
その間、朧夜は真純の手前にティーカップとケーキの乗ったお皿を並べて、真純の隣に腰掛ける。

真純(ち、近いっ! 死んじゃう!)
隣に座る朧夜との距離が近くて、鼓動がはやくなる真純。
真純は意識を逸らすために、ケーキに視線を向けることにする。

真純「美味しそう……!!」
甘いものが好きな真純は、ケーキを見て目を輝かせる。
朧夜「よかった。ショートケーキは初めて作ったから、味が上手くできてるか分からないけど……」
そう言って不安げな表情を浮かべる朧夜
真純「えっ、朧夜くんの手作り!?」(うそでしょ……!?)
目を見開いて驚く真純。
朧夜「うん。昨日の夜眠れなくて作っちゃった」
頷く朧夜。実はケーキ作りが趣味。
真純「すごすぎる……! お店で出せるよ!」
(お菓子作りも出来るなんて、意外だ……)
未だに驚きが止まない真純。

真純「私なんかが食べちゃっていいの……?」
ソワソワする真純。
朧夜「もちろん。助けてくれたお礼」
にこりと目を細める朧夜。甘い表情。
真純(表情豊かな朧夜くんだと、なんだか落ち着かないな……)
ドギマギする真純。

真純は朧夜に「どうぞ」と促され、緊張しながらスプーンでケーキを一口すくう。
そして、ドキドキしながらぱくりと食べる。

真純「美味しい……!」
あまりの美味しさに、ふにゃりと頬を緩ませる真純。それを見て嬉しそうに笑う朧夜。
真純(だらしない顔見られちゃった! 恥ずかしいっ!)(でも美味しすぎる……! 毎日食べたい!)
朧夜に見られていることを思い出し、恥ずかしがる真純。

朧夜「ね、俺にも一口ちょーだい」
身を乗り出してあーんと小さく口を開く朧夜。
突然のことに真純はビシッと固まる。
真純(こ、これは……!?)
ドキドキと動揺で目が回る真純。
あーんの状態で待つ朧夜。
ゴクリと固唾を飲む真純。
やがて、真純は覚悟を決めて、ケーキを朧夜にあーんする。
朧夜は真純の腕を掴んで、そのままフォークをぱくりと口に含む。

真純「な……っ!?」
驚く真純。
朧夜「あまいね」
ケーキを飲み込んだ朧夜はそう言って目を細め、真純を見つめる。
また恋の矢が胸に突き刺さり、動けなくなる真純。

真純(朧夜くん、それはずるいよ……!)
真純の顔が紅く染まり、わなわなと震える。

○ケーキを食べ終わった後・朧夜の部屋

机の上には空になったティーカップとケーキのお皿。
真純と朧夜はソファに並んで座っている。
真純はきゅっと縮こまり、自分の手元を見つめている。

真純「あの……ひとつ聞きたいんだけど……」
おずおずと尋ねる真純。
朧夜「もしかして、俺が吸血鬼だってこと?」
真純を覗き込む朧夜。
真純「う、うん。本当なの?」(私ってば、何聞いてんの……!)(本当なわけないよね……)
朧夜「うーん、白波さんはどっちだと思う?」
意味深な笑みを浮かべる朧夜。
真純「どっち、って……」(あれ……?)
読めない朧夜の表情を見た真純の脳裏に、玄関で見た、赤いジュースを飲んだ後のまるで吸血鬼のような【朧夜の舌と牙】が蘇る。

真純が動揺している間に、朧夜は立ち上がる。

朧夜「白波さんも、そろそろ帰らなきゃいけないよね。遅い時間だし、送ろうか」
真純「えっ、あ、大丈夫! 私の家もすぐそこだから……!」(さっきのは、何……?)
先程脳裏に浮かび上がった情景のせいで、動揺したままの真純。
朧夜「そう? わかった」
少しおかしい様子の真純を不思議そうに見る朧夜。

学生鞄を持ち、朧夜に連れられて部屋を出る真純。

○玄関

靴を履いた後、真純は朧夜に向き直って礼を言う。

真純「朧夜くん、ケーキありがとう……!」
丁寧にお辞儀する真純。
朧夜「こちらこそ、助けてくれてありがとう」
微笑む朧夜。
廊下の照明の効果で、身体の半分くらいくらい影がかかっている演出。
その朧夜の微笑みを見て、僅かに目を見開く真純(※この伏線は後ほど回収)

真純「……じゃあ、また明日ね」
ぎこちない別れの挨拶をする真純。
朧夜「うん。また明日、学校で」
微笑みながら、真純に手を振る朧夜。
真純はドアを開けて、「お邪魔しました」と言って朧夜の豪邸を出る。

○真純が帰った後・朧夜の家の玄関

微笑みながら手を振り、真純を見送る朧夜。
バタンッと扉が閉まった瞬間、微笑みを崩す。

朧夜「はぁぁ……」
朧夜はため息を吐いて薄暗い廊下の壁にもたれ掛かり、そのままずるずるとしゃがみ込む。
この時、朧夜の表情は前髪に隠されて見えない。

ここで朧夜の表情をアップ。
紅く染った頬と参ったように手で口元を覆う朧夜。

朧夜「……っ!」
その時、朧夜の脳内では、【ケーキを食べて微笑む真純】が回想される。
朧夜(か、かわいい……)
真純の愛らしさに、参ったようにもう一度ため息を吐く朧夜。

すると、今度は【真純の白い首筋】が朧夜の脳内に回想される。
前髪から除く、ギラつく朧夜の瞳。
その瞳の色は普段の茶色ではなくて、紅く染まっている。

朧夜「我慢しなきゃな……」
薄暗い廊下でそう呟く朧夜。薄く開いた唇の間から、鋭い牙がキラリとのぞく演出。

○真純の自宅(夜中)
髪を下ろして、パジャマ姿の真純はベッドに寝転んで考える。

真純(夜ご飯の味しなかったな……)
この時、【四人がけテーブルの椅子に座り、ぼうっとした様子で夜ご飯を食べ進める真純、そんな真純を心配する両親、家族を呆れた様子で見つめる弟】の描写を挟む。

真純(吸血鬼、かぁ……)(血が足りなくて、倒れてたってこと……?)
ベッドに横向きに寝転んで、壁を見つめて考える真純
その脳裏には、やはり吸血鬼のような朧夜の姿。
そして、真純が朧夜の家を出る前の朧夜の微笑みが頭の中に蘇る。
その時の朧夜は、影がかかって暗い色彩。
そして、亜麻色の前髪の隙間からのぞく瞳が紅く光る。

真純(あれは幻覚じゃない。朧夜くんは、本当に吸血鬼なのかも)
この時、【「白波さんはどっちだと思う?」と言って意味深に微笑む朧夜】が思い浮かぶ。
※あれ=朧夜の瞳が紅く染まったこと。

真純(あー恥ずかしい……!)
今度はあーんしたことを思い出して照れてしまう真純。
顔を手で覆ってジタバタする。

真純(色々なことがありすぎて、明日どんな顔で会えばいいの……!?)
ドキドキした表情の真純。兎の抱き枕をぎゅっと抱きしめる。


2話終了