笑顔の眩しい腹黒王子は、固い扉を蹴り破る

「なぜ、どうして、ローレンス殿下まで……!?」
「君を閉じ込める計画を耳にしたからさ。先回りして助けようとここで待ってたんだけど、一緒に閉じ込められてしまったね」

 ローレンスはなんてこと無いように、軽い調子で言ってのけた。
 モニカはくらりと目眩がする。ローレンスが閉じ込められた原因は、親切にもモニカを助けようとしたせいらしい。つまり、ただの巻き添えだった。なんてことだ。

「なんですか。その、私を閉じ込める計画って……?」
「嫉妬深い侍女達のくだらない話を聞いてしまったんだよ」
「嫉妬? 私に、ですか?」
「明日のお妃選びに、君を参加させないようにって」
「……わ、私は参加するつもりなんてありませんでした」
「うん。けれど、母上はしつこく君を誘っていたじゃない?」
 
 そうなのだ。実はモニカも、王妃から「お妃候補になってみない?」とお誘いを受けていた。王妃は真面目なモニカを随分と気に入ってくれていて、それはもう「娘にしたい」と周りへ公言するほどに。

 けれどモニカは、それを真に受けたりはしなかった。
 だって自分はただの伯爵令嬢だ。ここへは行儀見習いに来ただけで、そんな自分が名乗りを上げるなんて、身の程知らずなことはするべきではないと分かっている。
 なのに、どうしてこんなことに……

「万が一、君が明日のお妃選びに出席したら、もう選ばれるのはモニカに間違いないから」
「そんな。お妃候補をお選びになるのは、王妃様ではありません」
「そうだね」
「ローレンス殿下が直々に選ばれるのですよね……?」
「そのとおりだね」
  
 静かすぎるほどの密室。噛み合わない会話。
 ローレンスはモニカに向かってにっこりと笑った。