笑顔の眩しい腹黒王子は、固い扉を蹴り破る

「な、何ですか……」
「小屋から出たら考えてくれるの?」
  
 彼はあっさりとモニカの元を離れたかと思うと、外鍵のかかった入り口扉の前に立ち――
 突然、扉を蹴り上げた。
 
「えっ!!」
 
 ……!!!!
 
 凄まじい音を立てて、木製の扉に亀裂が入る。
 メキメキと蝶番の外れた扉は行き場を失って、とうとう向こう側へと倒れ込んだ。
 
「ひ、ひえ……!!」
 
 扉が、開いた。
 木製とはいえ、モニカが押しても叩いてもびくともしなかった頑丈な扉が、ローレンスの一蹴りで木っ端微塵になってしまった。

「さ、最初から、こうしていれば出れたのでは……?」
「何言ってるの。せっかくモニカと二人きりになれたのに、すぐ出るなんて勿体ないでしょ」
 
 目の前の光景に目を白黒させていると、ローレンスが眩しいくらいの笑みを浮かべてこちらを振り向く。
 
「さあ、モニカ。考えて」
「……え」
「小屋から出られるよ。考えよう。これからの俺達のことを」

 どうしよう。扉が、開いてしまった。
 この小屋から出なければ。そして考えなければ――ローレンスとの結婚を。

「まず、今日のお妃選びには出てくれるよね?」
「え?」
「ドレスはこちらで用意するから。すぐ、準備させよう」
「え? え?」
「広間では俺が君を選びに行くまで、モニカは立っているだけでいい」

 モニカの意思に関わらず、ローレンスによってどんどん話が進んでゆく。
 到底、頭がついていけない。

「ちょ、ちょっと待って下さいますか」
「待ったよ。何年もずっと待った」
「そんな!」
「もう、待てない」

 迫り来るローレンスからじりじりと逃げていたモニカだったが、とうとう壁まで追い詰められて。
 彼の腕はモニカの両脇の壁につき、最後の逃げ場を無くしてしまう。

「モニカ、降参して」
「ローレンス殿下――」

 モニカは、気持ちを誤魔化しきれない。
 だってこんなにも顔が熱い。
 赤い顔のモニカを、ローレンスは愛しそうに見つめて――二人は震える唇を重ね合った。 
 
 明かり取りの窓から見えるのは、橙色をした朝焼け。

 彼越しに見る新しい朝日は、モニカの固い心をゆっくりと溶かしていった。