笑顔の眩しい腹黒王子は、固い扉を蹴り破る

「ひどいじゃないか? 俺が王子だと分かった途端、避けるようになるなんて」
「あ……」
「祖父も待っていた。優しく頑張り屋なモニカのことを。けれど、君は来なくなってしまった」
「も、申し訳ありません……」

 モニカは居たたまれず、ローレンスから目を逸らした。けれどそんなモニカの視線を取り戻すかのように、彼はそばへと歩み寄る。 

「母上も、君を閉じ込めた侍女達も、みんな分かっているんだよ。モニカ以外は選ばれないって」
「みんな……!?」
「そう。気付かないのは、いつも君だけ」
 
 月明かりを反射して、ローレンスの瞳がキラリと光る。
 その視線は鋭かった。モニカの胸をえぐるくらいに。
  
「どうしても、俺はモニカ以外考えられない」
「む、無理ですよ……」
「ねえモニカ。俺のお妃候補になって?」
 
 ローレンスからは、どんどん距離を詰められる。
 心が、がたがたと揺れてしまう。
 このままでは駄目だ、このままでは――
 
「い、今はここを出ることが先決のはずです!」
 
 モニカは、苦し紛れに話を逸らそうとした。

「この小屋から無事出るまで、そんなこと考えている場合ではないでしょう?」

 そうだ、今は閉じ込められている非常事態なのだ。こんな、結婚だのなんだの言っている場合ではない。

 しかし話は逸れるどころか、ローレンスからは何やら黒い笑みをこちらに向けられている。