◯宮本家・リビングダイニング(朝)

家族と陽斗が朝ごはんを食べている。

美香「そういえば、今年はえまたちのクラスは文化祭何するの?」

えま「……縁日」

宮本「おぉ! パパも遊びに行こうかなぁ」

宮本、えまの様子を伺いながら聞く。

えま「……派手な格好は絶対やめてね」

宮本「えっ……?」
と、美香を見る。

美香、にっこり微笑む。

宮本「(涙目で)分かった! 保護者の中で一番地味な格好にするからな! 安心しろ!」

類「俺も行こうかな~」

えま「お兄ちゃんは絶対余計なことべらべら喋るからイヤ」

類「そんなぁ! それは父さんだって変わんないだろ!」

宮本「いや、父さんは類と違ってやる時はやれる男だからな」

類「いーや。蛙の子は蛙なんだから、蛙の親も蛙だよ」

えま、呆れながら朝ごはんを食べる。
陽斗と美香、顔を見合わせて頷く。


○高校・校門

文化祭の立て看板。
保護者や他校の生徒が続々と門の中に入って行く。


○同・教室前

教室外の壁に大きく【縁日】と書かれている。

桃香「縁日いかがですか~」

桃香、法被を着て呼び込み。
宮本、美香、類が教室の前に来る。

美香「桃香ちゃーん」

桃香「えまのお母さん!」

美香「えま中にいる?」

桃香「いますよ! 今呼んできますね!」

美香「お仕事中にごめんね」

桃香、「えまー」と扉口から教室の中に向かって叫ぶ。

えま「ママたち早くない?」
と、出てくる。

美香「実はゆっくりできなくなっちゃったから顔だけ見に来たの。ご飯のお金ある? 大丈夫?」

えま「うん大丈夫」

宮本、口を開くのを必死に我慢している。

桃香「ねぇ、後ろにいるのってえまのお父さんとお兄ちゃん?」

えま「あぁ……うん、そう」

桃香「こんにちは!」

宮本「いつもえまと仲良くしてくれてありがとうね」

類「はじめまして、えまの兄です」

桃香「やばい! お父さん超ダンディーだし、お兄さん超イケメン! 芸能人みたい!」

教室の中から生徒が集まって来る。
宮本と類、ニタニタする。

えま「はいはい分かった。来てくれてありがとうねー」

えま、宮本と類の背中を押す。

宮本「もうちょっといさせてくれよ!」
類「えま押すなってー」

美香「じゃあ、連れて帰るわね。桃香ちゃんもまたね!」

桃香「はい、また!」

えま、美香に手を振る。
美香、宮本と類を引っ張って行く。

廊下を歩く宮本と美香と類。

類「ていうかアイツどこ行ったんだよ。もしかして迷子?」

美香「子供じゃないんだから大丈夫よ。連絡しておく」

美香、スマホを出す。

×  ×  ×

えま、3人の背中を見送る。

女子1「ねぇ、えまの家族やばいね!」

女子2「お母さんも綺麗だし、お父さんもお兄ちゃんもカッコよすぎ!」

えま「そんなこと言っちゃダメダメ。調子に乗って大変だから」

えま、女子と教室の中に入って行く。
 

○同・校庭

陽斗、マスクにカラーグラスをつけて帽子を被った姿で出店で賑わう校庭に立ちつくす。
受け取った地図を指でなぞりながら歩き出す。


○同・廊下

すれ違う生徒が陽斗をチラチラ見る。
陽斗、気まずそうに歩く。


○同・教室前

陽斗、縁日の教室の前で足を止める。

桃香「縁日、楽しいですよ~」

陽斗、呼び込みをしている桃香に近づく。

陽斗「……すいません。えまいますか?」

桃香、怪しんで陽斗を見つめ、目を見開く。

桃香「はいッ! すぐ呼んできます!」

桃香、慌てて教室の中に行く。
通りかかる生徒がヒソヒソ会話しながら陽斗を見る。
陽斗、帽子を目深にする。
えまと桃香、走って教室から出てくる。

えま「(小声で)どうしているんですか⁉︎」

えま、陽斗の手を掴んで端の方まで引っ張る。

陽斗「美香さんたちと来たんだけど。途中で見失った」

えま「(小声)ママたちもう帰りましたよ! 陽斗くんも早く帰ってください!」

陽斗「例の先輩に見せつけたいって言ってたじゃん? せっかく来たし、彼氏のいない可哀想なえまのために、しょうがないから俺がその役やろうかなって」

えま、目が点になる。

陽斗「おーい?」
と、えまの顔の前で手をかざす。

えま「何言ってるんですか! ダメですよそんなことさせられません!」

陽斗「俺、一応新人俳優賞受賞してるよ」

えま「そういう心配をしてるんじゃなくて……!」

えま、すっかり乗り気の陽斗を見て諦める。

えま「はぁ……絶対にばれないようにしてくださいね⁉︎ 何もしなくていいですから!」

陽斗、頷く。
女子が群がって来る。

女子1「えま、こちらのイケメンは?」
女子2「もしかしてえまの彼氏?」

えま、答えようとする陽斗のマスクの口元を押さえる。

えま「あ、いや親戚の……」

女子3「なんか芸能人みたいだね」

えま、陽斗を隠すように前に立つ。

えま「違うの! この人、人見知り激しくて、陰キャで、普段は家からほとんど出ないから実は今日久々の外出なの! 特に女子が近づくと緊張で蕁麻疹でちゃうから!」

一同「へ、へぇ……」
と、陽斗を見ながら引いている。

桃香、その様子を見てクスクス笑う。

えま「じゃあ、私この人案内しなきゃだから!」

陽斗「あ、ちょっ!」

えま、陽斗の手を握って引っ張って行く。


○同・グラウンド

えまと陽斗、手を繋いだまま出店の通りを歩く。

陽斗「で。誰が人見知りが激しい陰キャだって?」

えま、ギクッとする。

えま「だって、しょうがないじゃないですか! 全然隠せてないんですよ芸能人オーラを! JKを舐めちゃダメ! ああでも言わないと絶対バレてました! それに人見知りは間違ってないでしょ?」

陽斗「まぁそうだけど……」

陽斗、えまに握られたままの手を見る。
えま、それに気づいてパッと手を離す。

えま「あっ、ごめんなさい……」

陽斗「いや……うん」

気まずい空気が流れる。

陽斗「あ! 俺アレ食べてみたかったんだよ!」

陽斗、チーズハットグの店を指さす。

えま「いいです……よ……」

えま、店の方を見て固まる。
真斗が店に立っている。

陽斗「もしかして、あれが元彼?」

えま、コクリと頷く。

陽斗「じゃあなおさら行かなきゃじゃん」

陽斗、店に向かって歩き出す。

えま「ちょっと待ってください!」

えま、陽斗を引き止める。

陽斗「なんで? 見せつけるんじゃないの?」

えま「……そうですけど」


○同・店の前

真斗「いらっしゃいませー!」

真斗、えまを見て驚く。

真斗「えま……」

えま、軽く頭を下げて真斗から目を逸らす。
陽斗、わざとえまの手を握る。

陽斗「えま、これ2人で一緒に食べよ」

えま「あ、はい……うん」

陽斗「これ1つ下さい」

真斗「……400円です」

陽斗、真斗にお金を渡す。
真斗、会計をしながら

真斗「……(陽斗を見て)お兄さん?」

えま「えっと……」

陽斗「彼氏ですけど」

真斗「……」

生徒「チーズハットグ1つお待たせしました」
と、えまに渡す。

えま「……ありがとうございます」

陽斗「ありがとうございます」
と、えまの手を引いて歩いていく。


○同・休憩スペース

陽斗とえま、席に座る。

陽斗「えまも食べる?」

えま「……いや、私は大丈夫です」

陽斗「そう?」
と、食べ始める。

陽斗「すごい顔してたなあの先輩」

えま「はい……何でですかね」

陽斗「そりゃあ……」

真斗の声「えま!」

声の方に真斗の姿。
陽斗、チーズハットグを置いて立ち上がり、えまの手を握る。

陽斗「行こ!」

えま「行くってどこに⁉︎」

走って逃げる陽斗とえま。
真斗、2人を追いかける。


○同・校舎内

陽斗とえま、人混みの間を縫って走る。
陽斗、追いかけてくる真斗をチラチラ見ながら、

陽斗「結構しつこいな」

えま、息が上がる。

えま「ハァツ、ハァッ。陽斗くん速ッ、待って!」

陽斗「じゃあ手離す?」
と、走りながら聞く。

えま、首を横に振って、

えま「……やです」

陽斗「(フッと笑って)了解!」

廊下の角で、2人が走り去る様子を盗撮している女子中学生。
ブレていてはっきりとは分からない程度。


○同・教室内

陽斗とえま、空き教室の扉を開けて中に入る。
椅子と机が並んだ静かな教室。
陽斗、窓際まで行ってえまの方に振り向く。

えま「?」

陽斗の顔がえまに近づく。
えま、反射的に後ろに下がろうとする。
陽斗、えまの後頭部に手を添えて自分に引き寄せる。
触れそうな距離で止まる2人の唇。
えま、息を止めて固まる。
真斗が教室の前に着き廊下から2人を見る。

真斗「!」

真斗、目を逸らしてその場を離れる。

陽斗「お、行った」

陽斗、ゆっくりえまから顔を離す。
えま、「はぁっ」と止めていた息を吐く。

陽斗「どう? うまくいったんじゃない?」

えま、切なそうに廊下を見つめる。

陽斗「どうかした?」

えま「……あの頃は本当に悲しくて悔しくて。絶対見返してやるって意気込んでたんです。でもいざこうして自分なりの仕返しをしてみると、思ったよりスカッとしないもんなんですね……」

陽斗「そっか……」

えま「ごめんなさいッ! 陽斗くんに手伝ってもらったのにこんなこと言って!」

陽斗「それくらい先輩のこと本気で好きだったってことじゃん。いい恋愛、してたんだな。いいねぇ、アオハルじゃん」

えま「だといいな~!」
と、伸びをする。

陽斗「でも俺もちょっと調子に乗り過ぎた。ごめん!」

えま「いえ! むしろありがとうございました。私もこれで吹っ切れました。それにしても、自然な演技だったな~さすが新人俳優賞!」
と、歩いていく。

陽斗、えまの背中を見つめながら、

陽斗「演技……か」
と、呟く。

えま「陽斗くん? どうかしました?」

陽斗「いや。なんでもない!」
と、えまの隣に行く。

えま「あれ。そういうえば陽斗くん。ハットグは?」

陽斗「そうだ! さっきのテーブルに置いてきちゃった!」

えま「えぇ⁉︎」

陽斗「急いで戻んなきゃ!」
と、小走りしだす。

えま「走んなくてよくないですか?」
と、笑って陽斗を追いかける。

えま、隣を走る陽斗の横顔を見て、

えま「……私は今が一番アオハルです」
と、呟く。