○宮本家・陽斗の部屋(夜)

陽斗、ベッドに座ってスマホを見る。

〈母:誕生日おめでとう。歌にドラマに大忙しだね。体調には気をつけて、いつでも帰っておいで〉
と、メッセージが来ている。

陽斗、母に電話をかける。

陽斗「あ、もしもし母さん? ごめんメッセージ返せてなくて」

母の声「きっと忙しいんだろうなと思ってたから大丈夫よ。わざわざ電話ありがとうね。陽斗、誕生日おめでとう」

陽斗「俺の方こそ。(照れ臭そうに)生んでくれて、育ててくれてありがとう」

母の声「(笑いながら)あら。ソルトプリンスからそんなこと言ってもらえるなんて」

陽斗「なんでそれ知ってんの」

母の声「そりゃあ、陽斗が出る番組全部みてるもん」

陽斗「(嬉しそうに)ありがと」

母の声「今日ね、葵が優くん連れて来てるの。もう寝ちゃったけどね。陽斗に会いたがってたよ。あ、ちょっと待って。葵に代わるね」

電話から田中葵(30)の声。

葵の声「もしもし陽斗。誕生日おめでとー。ドラマみてるよ」

陽斗「ありがと」

葵の声「金と女と薬だけは気をつけなさいよ」

陽斗「未だに週刊誌に撮られてないの、絶対姉ちゃんの教育のおかげだよ」

葵の声「ふふっ。そうでしょ? あ。お父さん戻って来たから代わるね」

電話口から「お父さん、陽斗」という声が聞こえる。

父の声「もしもし陽斗か?」

陽斗「うん。父さん変わりなく?」

父の声「あぁ。そういえばドラマ見てるぞ。演技はいいけど、お前はバラエティがなぁ。もっと翼くんみたいにアピールしなくて大
丈夫なのか?」

陽斗「(苦笑しながら)ハハッ。そうだね」

電話口から「ちょっとそんなことはいいから。おめでとうって言った?」という葵の声。

父の声「そうだ。誕生日おめでとう」

陽斗「うん、ありがと」

父の声「・・・」

「ちょっと貸して」という母の声。

母の声「ごめんね陽斗。(小声で)あんなこと言ってるけど、陽斗が出る番組とか雑誌とか、お父さんが一番チェックしてるのよ」

陽斗、驚く。

陽斗「えぇ、そうなんだ」

母の声「じゃあそろそろ切るね。電話ありがとう。無理しすぎないのよ」

陽斗「うん、また連絡する」

陽斗、電話を切り両手を挙げてベッドに寝そべる。
玄関からドアが開く音。
陽斗、音に反応して起き上がる。


○同・廊下(夜)

えま、スクールバッグを肩にかけ、両手にキャリーケースとケーキの箱を持って廊下を進む。
陽斗の部屋のドアが急に開く。

えま「わっ!」

えま、後ろに倒れそうになる。
陽斗、咄嗟にえまの背中に手を回して支える。

陽斗「おっと……おかえり」

えま「た、だいま……」

えま、瞬きしてしばらく固まってから慌てて陽斗の腕から抜ける。

陽斗「もしかして、それケーキ?」

陽斗、えまが持っている白い箱を指さす。

えま「はい」

陽斗「よっしゃ! 帰って来るの待ってた」

陽斗、くしゃっとした笑顔。

えま「(何その笑顔! 尊すぎるんですけど~)」

えま、興奮を必死に抑える。

陽斗、えまから箱を受け取って、

陽斗「荷物置いたらダイニング集合な~」
と、廊下の奥に消えていく。


○同・えまの部屋(夜)

えま、部屋に荷物を置く。
机の上にはラッピングされた箱が置いてある。

えま「ここまで来たら、もうなるようになれだよね⁉」

えま、箱を持って部屋を出る。


○同・リビングダイニング(夜)
えま、プレゼントを後ろに隠しながら入る。
陽斗、テーブルの中心にケーキの箱を置き、お皿とフォークを向かい合わせ
に並べる。
えま、プレゼントをそっと自分の席の隣に置く。

えま「ケーキ出しますね」

陽斗「うん!」

陽斗、ワクワクしながら見つめる。
えま、箱からケーキを取り出す。
真っ白のクリームが塗られた小さな2段のシフォンケーキ。
黒地のアイシングクッキーに白いチョコペンで【Happy birthday陽斗くん】と書かれている。
上から細かく砕かれたクッキーがまぶしてある。

陽斗「すご! 俺のカラーになってる!」

えま「もちろんです! 陽斗くんのためのケーキなんですから!」

えま、ろうそくを差し、ライターで火をつけようとする。

えま「あれ、つかない」

えま、ライターをカチャカチャさせる。
陽斗、えまの手の上から自分の手を重ねる。

陽斗「ライターってちょっとコツがあるんだよ」
と、えまの手を上から包む。

陽斗「ここに親指置いて、気持ちゆっくり押すと……ほら、ついた」
   
えま「ほんとだ! ついた!」
   
陽斗、ニコッと笑って手を離す。

えま「陽斗くん慣れてますね」
陽斗「前ちょっと煙草吸ってたことあるからかな。今はもう吸ってないけど」

えま「へぇ……」
と、目を丸くする。


○(えまの妄想)宮本家・ベランダ

陽斗がベランダで煙草を咥え、空に向かって煙を吐く。
陽斗「吸ってる時はあっち行ってろって言ったじゃん」
と、煙草を遠ざける。
(えまの妄想終了)

○同・リビングダイニング(夜)

えま、陽斗をうっとり見つめる。
陽斗、えまの顔を覗き込む。

陽斗「あ……ごめん、こういうの言わない方が良かったか」

えま、意識が戻って、

えま「いえ! この情報知ってるファンって私だけですよね。むしろ光栄です!」

えま、ダイニングの電気を消す。
ろうそくの火がユラユラ揺れる。
えまと陽斗、向かい合って座る。
えま、手を叩きながら、

えま「ハッピバースデートゥーユゥー。ハッピバースデートゥーユゥー。ハッピバースデーディア陽斗くーん。ハッピバースデートゥーユゥー」

陽斗、ろうそくをフッと消す。

えま「おめでとうございます!」
と、拍手しながら電気をつける。

陽斗「ありがと」

陽斗「社長と美香さんの分も残しておく?」

えま「これは私たちで食べちゃいましょ! ママは別の日にうちでも陽斗くんのお祝い
するって言ってたし」

陽斗「オッケー。一応4つに切るよ」

陽斗がケーキを切り分け、えまが差し出したお皿に乗せる。

陽斗「じゃあ、いただきます」

陽斗、ケーキをひと口食べる。

陽斗「めちゃくちゃ美味い! これどこのケーキ?」

えま「良かったぁ! これ、私のバイト先で特別に作ってもらいました!」

陽斗「ミラベルで?」

えま「はい。うちの店長元々パティシエールだったので、こういうスイーツは得意分野
なんです。1人とか2人で食べきれるホールケーキ作ってほしいってお願いしたら作ってくれました!」

陽斗「そうなんだ。いつもドリンクばっか頼んじゃうからなぁ。今度行った時はスイーツも食べてみる」

えま「ぜひ!」

陽斗、パクパクとケーキを食べ進める。

陽斗「あのさ。誕生日だし、気になってたこと聞いてもいい?」

えま「なんだろ。緊張する……」

陽斗「えまはさ、なんでユニクラのファンになってくれたの?」

えま「それ本人の前で言うのはなかなか恥ずかしいんですけど……」

陽斗「俺、今日たんじょーび!」
と、自分の鼻を指さしながらえまを見つめる。

えま「それ言われたらもう話すしかないじゃないですかぁ」

えま、大きく息を吐く。
 
えま「きっかけは……」


○(えまの回想)高校・校庭(夕方)

サッカー部が練習をしている。
校庭の周りには女子が集まっている。
えま(16)と桃香(16)もフェンス越しに見つめる。
工藤真斗(17)がゴールを決める。
女子の黄色い声援が上がる。

えま「先輩ナイスー!」

真斗、えまの声に気づいてえまの方に歩いてくる。

真斗「えまちゃん来てくれたんだ」

えま「お疲れ様です! 先輩カッコ良かったです!」

真斗「えまちゃんに言われると嬉しいな。あのさ、良かったら今日」

部員の声「おーい真斗! 集合だってー!」

真斗が何かが言いかけたところで部員に呼ばれる。

真斗「ごめん行かなきゃ。またね!」

えま「はい! 頑張ってください!」

えま、真斗の背中を見つめる。
桃香、えまを肘でつつく。

桃香「絶対脈アリだって! こんなに女子がたくさんいるのに、わざわざえまの方に来たんだよ? 間違いないって!」

えま「たまたまかもしれないじゃーん」

桃香「告白しちゃいなよ!」

えま「え~⁉」


○(えまの回想)同・校舎裏

えまと真斗が向き合う。
えま、呼吸を整えて、

えま「真斗先輩が好きです! 良かったら付き合ってください!」

えま、目をギュッと瞑る。

真斗「俺で良ければ! よろしく、えまちゃん」

真斗、手を差し出す。
えま、パッと顔が明るくなる。
見つめ合ってはにかむ2人。

えま「あの……恥ずかしながら私付き合うとか初めてで……」

真斗「そうなんだ。俺を初めての彼氏にしてくれてありがとう。大事にする」
と、えまの手を握る。

えま、照れながら頷く。


○(えまの回想)駅・改札

えま、改札の方を見る。

えま「先輩……何かあったのかな?」

えま、スマホを見るが連絡はない。
真斗、えまの後ろから近づいてえまの目元を手で隠す。

えま「わっ……!」

真斗「だーれだ?」

えま、口角を上げる。

えま「え~誰だろ~?」

えま、真斗の手を触る。
真斗、手を離してえまの顔を覗き込む。

真斗「ごめん、お待たせ」

えま「先輩遅刻したから、今日はずっと手繋いでもらいますからね?」

真斗「それ全然罰になってないけど大丈夫?」

真斗、えまの手を引いて柱の後ろに回る。
柱の陰でキスする2人。


○(えまの回想)高校・門

学園祭の立て看板。
保護者や他校の制服の生徒が入って行く。


○(えまの回想)同・教室の外
   
【執事喫茶】と書かれた立て看板。


○(えまの回想)同・教室の中

えまと桃香、教室の中に入る。

女子「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

えま「2人です」

女子「2名様入りまーす!」

執事の恰好をした男女が迎える。

男子「いらっしゃいませ!」

えまと桃香、2人がけの席に座る。
えま、キョロキョロと教室内を見渡す。

桃香「先輩いないね」

えま「うん。この時間お店いるって言ってたんだけどな……」

黒いカーテンで仕切られたバックヤードから話し声が聞こえる。

女子の声「ねぇいいの? 彼女いるんでしょ?」

真斗の声「まぁ、一応?」

えま、カーテンの方を振り向く。

女子の声「(笑いながら)何それー」

真斗の声「可愛いんだけどさ、なんか思ってたより子供っぽかったというか。彼女って
か妹にしか見えないんだよね」

女子の声「ウケる。まぁ1年生だから仕方ないんじゃない? だったら早く別れてあげなよ。可哀想~」

えま、カーテンの方へ行き勢いよくカーテンを開ける。
中には真斗とその膝の上に座っている女子の姿。
教室内全員の視線が集まる。

生徒「(小声で)あれって2年のサッカー部の先輩だよね?」

生徒「(小声で)うん。1年と付き合ってるって聞いたけど……」

生徒「相手の女、3年の先輩だよね?」

生徒、スマホで写真や動画を撮り始める。
真斗と女子、慌てて離れる。

真斗「えま、これは違う」

えま、目に涙を浮かべて教室を飛び出す。

真斗「えま、待てって!」

桃香「もう2度とえまに関わらないでください!」

桃香、工藤に言い放ちえまを追いかける。


○(えまの回想)宮本家・リビングダイニング(夜)

宮本、テーブルでごはんを食べる。

宮本「えまは?」

美香「家にいる時はずっと部屋に籠りきり。お腹もすかないって言って全然食べないの」

美香、心配そうに言う。

宮本「俺のカワイイ娘を傷つけるなんて許せないな。大体、彼氏ができたなんて俺は聞いてない!」

美香「あら! 言ってなかった?」

宮本「聞いてないよ!」

宮本、目を細めて美香を見る。

美香「ごめんごめん」

美香、1人分の料理をよそってラップをかける。


○(えまの回想)同・えまの部屋(夜)

えま、ベッドの上で体育座りをして膝に顔を埋める。
スマホの通知音が鳴り、メッセージを確認する。
   
〈桃香:これめっちゃ笑えるよ!〉
と、動画サイトのURLが送られてくる。

えま、URLを開いて動画を見る。
芸人の漫才動画。

ボケ「オカンがな、最近アイドルにハマってんねん。でもさっきからそのアイドルの名前が思い出せんのよ」

ツッコミ「俺アイドル詳しいよ。なんか特徴言うてみ」

ボケ「最近ものすごく人気で、グループメンバーが5人いるらしいねん」

ツッコミ「それユニクラウンやないか。今人気で、5人組のアイドルって言ったらユニクランしかおらんやろ」

ボケ「俺もそう思ってんけどな」

ツッコミ「そうやろぉ?」

ボケ「おかんが言うにはな、メンバーの仲が最悪らしいねん」

ツッコミ「あーほなユニクラウンとちゃうかぁ。ユニクラウンはな、メンバー仲が良すぎるって有名なんよ。地方とか行った時も、
1人ずつホテルの部屋があるのにな、結局誰かの部屋に集まって、ギュウギュウのベッドで寝る。ほな、これユニクラウンとち
ゃうよ。もうちょっと詳しく教えてくれる?」

えま、真顔で見続ける。

×  ×  ×

ツッコミ「それやっぱりユニクラウンやないか! どうも、ありがとうございました
ー!」

えま、フフッと笑う。
ネットで【ユニクラウン】と検索する。
デビュー曲のPVを見始める。


○(えまの回想)同・リビングダイニング(朝)

美香、朝食の用意をしている。
走って来る足音と共にえまが飛び込んでくる。

えま「ママ!」

美香、驚いてえまを見る。

美香「おはよう。どうしたのそんな慌てて」

えま「私ユニクラウンのファンクラブ入りたい!」

美香「急にどうしたの?」

えま「なんとなく動画見始めたらもう止まらなくて! ねぇ、いいでしょ?」

えま、生き生きと話す。
美香、優しく微笑む。

美香「いいじゃない!」

えま「それでね、グッズとかコンサート代とか、自分のお金で払いたいからバイトしていい?」

美香「えー?」

えま「お願いお願い!」

えま、顔の前で手を合わせる。

美香「……分かった。でも勉強が優先よ? 成績が落ちたらナシだからね?」

えま「うん! ありがとう!」

美香、ホッとする。

美香「ちなみに、誰が一番好きなの?」

えま「このね、田中陽斗くんって人なんだけど」

えま、美香に陽斗の写真を見せる。

美香「んー! ママも陽斗くん好きよ!」

えま「え? ママユニクラウン知ってたの?」

えま、不思議そうに美香を見る。

美香「あ……だって、すごく人気のグループでしょ? ママだって知ってるわよ」

えま「そっかそうだよね! コンサート当たったらママも行く?」

美香「うん、行きたいな~」
(えまの回想終了)


○えまの家・リビングダイニング(夜)

えま「とまぁ、そんなわけです」

えま、話し終わってケーキをひと口食べる。

陽斗「それにしても酷いなその先輩……でもそのお陰でえまがユニクラを知ってくれたわけだから、ある意味感謝なのかな」

えま「最低ですよね⁉ だから今年の文化祭は絶対先輩よりもカッコよくて最高の彼氏と一緒に回って、先輩を見返すって決めて
るんです! まぁ先輩からしたら、もう私なんてどうでもいいかもしれないですけど……」

陽斗「いいじゃん見せつけてやんなよ。それで、肝心のカッコいい最高の彼氏はいるわけ?」

えま「問題はそこなんです! 田中担になってからというもの、他の男性に全然ときめかないんです! 例えばイケメンが歩いてても、『整った顔だなぁ。でも陽斗くんの方がカッコいい』って思っちゃうし、優しくされても『優しい人なんだなぁ。でも陽斗くんほどじゃないけど』ってなっちゃうんです。やっぱりアイドルオタクになると恋愛できなくなるって噂は本当だったんすね……」

えま、テーブルに項垂れる。

陽斗「ユニクラって5人いるじゃん? その中でどうして田中陽斗なのか聞きたい」

えま「さすがにそれはしんどいです! いくら誕生日でも、本人に直接言うのはムリです!」

陽斗「アイドルの田中陽斗と俺は別人だって言ってのはえまじゃん」

えま、言葉に詰まる。
陽斗、勝ち誇った顔でえまを見る。
えま、目を逸らして、

えま「……それはやっぱり、ダンス上手で歌も上手くて、何よりカッコいいですし……」
と、呟く。

陽斗「そうだ。えまは俺の顔と体と声だけが好きなんだったね」
と、笑う。

えま「それはあの時陽斗くんに安心してもらうために言っただけで……! 本当はそれだけじゃないですもん!」

陽斗「じゃあ本当は?」

えま「……陽斗くんは、他のメンバーと違って甘い言葉とかもなかなか言ってくれなくて、人見知りもあるから雑誌とかテレビではソルトプリンスなんて言われることが多くて」

陽斗「え、もしかして悪口?」
と、ニヤニヤする。

えま、笑いながら首を横に振る。

えま「……でも、実はブログの更新率はメンバー1で。言葉にはあまり出さないけど、ファンのこと大切に思ってくれてるのが行動で分かるんです」

陽斗、照れ臭そうに目を泳がせる。

えま「それはメンバーとかスタッフさんに対しても同じで、とにかく気遣いの鬼。それくらい自分のことも優しくしてって思うのに、自分にはすごくストイック。基本何でも器用にこなせるけどちょっと天然だったり」

陽斗、苦笑する。

えま「そんな魅力的なところがたくさんあるのに、絶対に天狗にならないところとか。アイドルとかそれ以前に、人として尊敬してて、見習いたいところがたくさんあるんです。何よりもステージに立ってる姿が本当にキラキラしてて、アイドルを楽しんでるのが伝わってくるから。だから私は陽斗くんを好きになりました!」

陽斗、目を丸くしてえまを見つめる。

陽斗、手で口元を押さえて視線を逸らす。

陽斗「待って、今ちょっとダメだから!」

えま、悪戯っ子のような笑顔で、

えま「陽斗くんが聞きたいって言ったんですからね? まだまだありますよ~」

陽斗「これ以上は恥ずかしすぎて死ぬ」

えま、ニヤニヤしながら見る。

えま「そうだ! 恥ずかしいついでにこれ渡しちゃいますね!」

えま、椅子の上のプレゼントを陽斗に差し出す。

えま「改めて、誕生日おめでとうございます!」

陽斗「俺に……? 開けていい?」
 
えま「ほんっっとうに大したものじゃないので!」

陽斗、包装紙を外して箱の蓋を開ける。

陽斗「え……? これタオル? オシャレすぎない?」

箱の中には動物の形に畳まれたスポーツタオルとバスタオルが入っている。

えま「はい……家とかライブリハとかでも使えるかなって……」

陽斗「こんなオシャレなの初めて見た。タオルってさ、大体こんな平べったい箱に畳んで入ってない? 俺それしか見たことない」

えま「いらなかったら雑巾とかにしてもらって全然大丈夫なので!」

陽斗「(笑いながら)雑巾なんかにしないよ勿体ない!」
と、タオルを広げる。

陽斗「ごめん。ちょっと驚きすぎてうまく言葉が出てこないんだけど。今めちゃくちゃ喜んでるから! ありがとう。大切に使わせてもらいます」

えま、照れ臭そうに笑う。
陽斗、大事そうにタオルを箱に戻す。

陽斗「ケーキもう1個食べていい?」

えま「もちろんです! 陽斗くんのケーキなので!」

陽斗、自分のお皿とえまのお皿に残りのケーキを乗せる。

えま「えー! 私こんな時間に2個目はヤバいです!」

陽斗「大丈夫大丈夫。俺もライブに向けて体作んなきゃだけど。今日は特別」
と、美味しそうにケーキを頬張る。

えま「ですね!」
と、えまもケーキを頬張る。


○同・洗面所(夜)

えま、スマホを見ながら髪の毛を乾かす。
ブログ更新のメールが届く。
えま、ドライヤーを止めてブログを確認する。

えま「陽斗くん更新してる!」

【夜遅くにごめん】というタイトルの記事。
えま、読み上げる。

えま「9月30日。気づいたらこんな時間になってました」


○同・陽斗の部屋(夜)
 
陽斗、ベッドに座ってスマホでブログを書く。
陽斗M「まずは、今日誕生日のみなさん、おめでとう! ついでに俺も(笑)仕事の合間に朝からSNS見てます。見ても見ても追いつかない。これ、リアルに全部見終わるの来年までかかりそう(笑)メッセージとか、ケーキにデザートプレート、バルーン、花。他にもたくさん。プレゼントを買ってくれた人もたくさんいて。もうね、そうやって俺のことを考えてくれたっていうそのことが有難いし、嬉しいです。みんな、たくさんの愛をありがとう。こんなの面と向かっては絶対言えないからここで(笑)26歳の田中陽斗、そしてユニクラウンをこれからもよろしくお願いします。写真は社長に連れてってもらった鮨屋で撮ったやつ。みんなに祝ってもらいました。P.S.ライブに向けて絶賛準備中です。来てくれる人、どうかお楽しみに。今回来れない人、絶対会いに行くから、それまで絶対浮気すんなよ?」


○同・洗面所(夜)

えま、髪を乾かしながらブログを見ている。
ブログの最後に鮨屋で撮ったユニクラウンの写真が貼られている。

えま「これだから田中担はやめられないッ!」
と、ピョンピョン跳ねる。


○同・陽斗の部屋(夜)

陽斗、満足そうにブログを見る。

陽斗「ケーキといい、プレゼントといい……たくさんもらっちゃったな」

陽斗、えまからもらったプレゼントを愛おしそうに見る。