○高校・教室

生徒、それぞれ席をくっつけてお昼を食べている。
えまと桃香、机を向かい合わせて話し合い。
桃香、真剣な顔で机に肘をついて両手を握る。

桃香「えま、ついにこの時期がやってきたね……」

えま「(真剣に)うん……!」

えまと桃香、お互いのスマホのスケジュール帳を開き机に置く。

えまと桃香「私たちの推しの誕生日!」

同じ日に【陽斗くんBD】【亜蘭くんBD】と表示されている。

桃香「とりあえずカラオケ2部屋予約はバッチリ!」

えま「隣の部屋で祝えるね!」

桃香「ケーキはもう決まってるし、あとは飾りつけと……」

桃香、スマホを見ながら呟く。
えま、桃香を見つめる。

桃香「ん? なに?」

えま「(懐かしそうに)いや。去年のこと思い出してさ」

桃香「あー! あの時はほんと焦ったよ。まさかえまがいるとは思わなかったからね」


○(桃香の回想)カフェ・店内(夜)

桃香M「中学の頃、苦い思いをしたことがきっかけで、それ以来私は自分がオタクだということを周りに隠していた」

えま(16)、陽斗のアクリルスタンドを取り出して、テーブルの上でドリンクと一緒に写真を撮る。
桃香(16)、その様子を切なそうに見つめる。
えま、桃香の視線に気づいて、

えま「あ……ごめんね勝手にオタ活しちゃって」

桃香「ううん。全然気にしないで!」

えま「桃香もぜひユニクラ担に。いつでも歓迎だよ〜」

桃香「……(作り笑顔で)ありがと」

えま「そうだ、聞いてよ桃香~!」

桃香「ん?」

えま「今年ユニクラ3周年なんだけど、私のオタ友みんな地方の子だから一緒にお祝いとかできないの! 本当はホテルの部屋とか借りてやりたかったんだけど、さすがに1人だと割高だし……ごめんね陽斗くん。こんな私を許して……!」
と、手のひらを合わせて祈る。

桃香「(いきいきと)最近はカラオケとかも推し活プランとかやってる所多くて、値段もわりとお手頃だよ! 飾りとかも貸してくれたり、プランによってはハニートーストとかもついたりするからオススメ! そういうの探してみたら?」

えま、目が点になる。

桃香「……(慌てて誤魔化すように)って、テレビの特集でやってたの! すごいんだねぇ、推し活って!」

えま「そうなんだ……」
と、桃香を見つめる。


○(桃香の回想)カラオケ・廊下

桃香が部屋から出てくると、廊下にはえまがいる。

えま「桃香! ひとカラ?」

桃香「あ、えーっと……」

桃香、ギュッとスカートを握る。

えま「私ね、桃香が教えてくれたプランでユニクラのアニバーサリーすることにしたんだ! ボッチだけどね(おちゃらける)」

桃香、無言のまま。

えま「……じゃあ、また学校でね!」

えま、自分の部屋に入ろうとする。
桃香、拳をギュッと握りしめて口を開く。

桃香「待ってえま!」

えま、桃香の方を見る。

桃香「……私もね、今日推しのお祝いで来たの。知らないと思うけど、亜蘭くんってキャラクターで、本当は誕生日9月30日だから過ぎてるんだけど、まだお祝いできてなかったから……今日1人で振替バースデーしてるの……」

桃香、ギュッと目を瞑る。

えま「それほんと⁉︎ 陽斗くんも誕生日同じだよ! これって運命じゃない?」

桃香が目を開けると、にっこり笑って嬉しそうなえま。
桃香もつられて口角を上げる。

桃香「うん!」


○(桃香の回想)同・桃香のカラオケルーム

亜蘭のイメージカラーの紫で統一された飾り付け。

えま「お~!」

えま、感動しながら部屋の中に入る。
テーブルには亜蘭の缶バッジとアクリルスタンドが敷き詰められている。
椅子にはたくさんの亜蘭のぬいぐるみ。
桃香、テーブルの配置を調節しながら一眼レフカメラで撮影。
えま、桃香の様子を撮影して楽しむ。

えま「ねぇ桃香! 来年さ、良かったら隣同士で部屋取ってお互いの推しの生誕祭しようよ! もちろん、各自で楽しんだ後に最後一緒にケーキ食べたりするくらいでいいんだけど」

桃香「え……」

えま「でもあれか、桃香は亜蘭くんのオタ友とかいるか……」

桃香「ううん! 私、亜蘭推しとは全然繋がってないの! 同担拒否まではいかないけど、自分からはあんまり絡みに行けなくて……結構リアコ寄りだし。だから基本いつもボッチなの……(不安そうに)引くよね?」

えま「何言ってんの! 引くわけないじゃん! じゃあ来年一緒にやろ! 決定ね!」

桃香「うん!」
(桃香の回想終了)


○宮本家・リビングダイニング(夜)

宮本、ソファに座ってテレビを見ながらワインを飲んでいる。
美香、キッチンで料理の仕込みをしている。

陽斗「帰りました」
と、リビングに入って来る。

美香「おかえりー!」

宮本「おー陽斗! お前、誕生日何食べたい? ユニクラ全員で飯行くぞ!」

陽斗「(少年のような笑顔で)やった! やっぱ寿司がいいです」

宮本「オーケー寿司な!」

美香「じゃあ私もその日友達と出かけてこよーっと」

宮本「でもえまが1人になっちゃうな」

美香「えまもその日は約束があるみたいよ?」

宮本「……まさか、男か⁉︎」

宮本、1人でパニックになる。

えま「ただいまー」
と、リビングに入って来る。

美香「おかえり」

陽斗「おかえり!」

えま「(嬉しそうに)……ただいまです」

宮本「えま! 彼氏できたなんてパパ聞いてないぞ!」

宮本、えまに近づく。
えま、鬱陶しそうに距離をとる。

えま「いきなり何⁉︎ 彼氏なんていませんけど! パパなに? 嫌味?」

えま、怒って部屋に戻って行く。

宮本「(青ざめる)どうしよう……えまに彼氏……」

陽斗「まぁ、いてもおかしくないでしょ。青春真っ盛りですし」

宮本「やめろ! 聞きたくないッ!」
と、耳を塞ぐ。

美香「ふふふ」
と、笑う。


○同・廊下(夜)

陽斗、自室に入ろうとすると、隣の部屋からえまが出てくる。

陽斗「9月30日て、実はほんとにデートだったり?」

えま「もう陽斗くんまで! だから、彼氏なんていないですって!」

陽斗「じゃあバイトとか?」

えま「はいぃぃ⁉︎ 田中陽斗生誕祭2023にバイトなんて入れません! その日は学校終わってから大忙しなんですから! ダッシュでケーキ受け取りに行って、飾りつけして……」

えま、指折り数えながらぶつぶつ呟く。

陽斗「おぉー!」

えま「……(顔を赤らめて)すいません。つい……」

陽斗「じゃあ帰ってきたら俺、ケーキ食べれんだ!」

えま「ケーキは私が代わりに食べますよ? それが本人不在の誕生日会です!」

陽斗「本人不在じゃないない! 俺ここにいるじゃん! 食べれないの⁉︎ 主役なのに⁉︎」

えま「言われてみれば確かに……」

陽斗「よっしゃ! 楽しみだな~」

陽斗、上機嫌で部屋に入る。


○同・えまの部屋(夜)

えま、閉めたドアに寄りかかる。

えま「そっか……私、直接お祝いできるんだ!」
と、飛び跳ねる。


○テレビ局・スタジオ

T『田中陽斗誕生日当日』

スタッフが収録の準備をしている。
陽斗、1人でスタジオに入って来る。

陽斗「よろしくお願いします!」

スタッフ、それぞれ「お疲れ様でーす」「お願いします!」と返す。
陽斗、自分の席に座る。

スタッフ「あれ、みなさんまだメイクかかりますかね?」

陽斗「いや、もう来ると思うんですけど……」

陽斗、出入り口の方を気にしながら立ち上がると突然照明が消える。

陽斗「え? 停電?」

すると、手を叩きながら歌が聞こえてくる。

一同の声「ハッピバースデートゥーユゥー、ハッピバースデートゥーユゥー。ハッピバースデーディア陽斗~。ハッピバースデートゥユゥー!」

声が陽斗の目の前まで近づいてくる。
照明がつくと同時に悠真と柊也がクラッカーを鳴らす。

一同「陽斗おめでとう!」

ユニクラウンのメンバーとスタッフが拍手。
凛太郎、両手でホールケーキを持っている。
翼、陽斗の肩に手を回す。

翼「サプライズっ!」
メンバー「大成功――!」

カメラが5人に寄る。
悠真、【ドッキリ大成功】のプラカードを持っている。

陽斗「マジか……全然気づかなかった!」
と、はにかみながらみんなを見る。

陽斗「みんなありがと! スタッフのみなさんもありがとうございます!」

翼「ほら〜食え食え」
と、フォークで大きめにケーキを取り、陽斗の口元に持っていく。
陽斗、大きく口を開ける。
翼、わざと口の周りに付けて食べさせる。

陽斗「俺の口ここだから!」

陽斗、鼻にクリームが付いた顔で自分の口元を指さす。
メンバーとスタッフの笑い声。

芸人1「これ見たらねぇ、多分田中担は堪らないですよ。間違いなくヒィヒィ言いますよ、これは」

芸人1、カメラにどアップになって喋る。
カメラが急いで離れる。

芸人2「分かってんならお前遠慮しろよ。カメラさん田中くん撮ろうとしてんだよ」
と、芸人1の頭を叩く。

メンバー、大爆笑。

芸人2「ということで、本日のユニクラ学園、」

芸人1と2「スタートです!」

番組収録が始まる。


○駅・改札(夕方)

えま「じゃあ私はケーキ取りに行くね! 荷物よろしく!」

桃香「頼んだ! 荷物は任せて!」

桃香、キャリーケースを2つ引いてホームに向かう。
えま、桃香とは反対のホームに行く。


○同・ホーム(夕方)

えま、ホームで乗車列に並んで陽斗とのメッセージ画面を確認。

〈えま:誕生日おめでとうございます!〉

既読はついていない。
えま、送信取り消しにしようとしてやめる。
電車がホームに入って来てえまが乗り込む。


○ミラベル・店内(夕方)

えま、中に入りレジの前を通りお渡し口へ向かう。

えま「お疲れ~!」

勇輝「おーお疲れ! ちょっと待って今店長に声かけるから」

えま「ありがと」

勇輝「店長! えま来ました!」
と、バックヤードに声をかける。

舞が白い箱を2つ持って出てくる。

舞「お待たせ~! はいこれがえまのと、あともう1つ頼まれてたやつね」

舞、箱を開けてえまに中身を見せる。

えま「やっぱり店長のケーキは最高です! ありがとうございます!」

舞「喜んでもらえて良かった! ちょっと待ってね。保冷剤つけるから」

綾乃「ねぇ、陽斗くんって誰なの~? もしかして彼氏? 彼氏なんでしょ?」

綾乃、拗ねながら会話に入る。

勇輝「コイツに彼氏なんているわけないじゃないですか」

えま「そうそう」
と、元気よく頷く。

綾乃「そんなの分かんないじゃん!」

勇輝「だって、コイツアイドルしか眼中にないですもん」

綾乃「アイドル?」

えま「ユニクラウンの田中陽斗くん。私の推しです♡」

綾乃「へぇ~。あぁっ! そういえばさ、この間からちょいちょいえまがバイト終わるまで待ってる人いるよね……?」

綾乃、えまを怪しむ。

勇輝「あー! なんか帽子被って、マスクして、芸能人みたいな人」

えま「……えーっと、誰のことだろう……?」
と、誤魔化す。

綾乃「もしかしてあれって……」

えま、ゴクリと喉を鳴らす。
綾乃、えまの肩を掴む。

綾乃「あの人が彼氏なんでしょ!」

えま、きょとんとする。

えま「(ボソッと)なんだそっちかぁ……違い
ます。彼は親戚の人みたいな、そんな感じです」

綾乃「ホントにぃ~?」

えま「本当です!」

綾乃「彼氏できたら絶対教えてね? 別に嫌がらせとかしないから!」

えま「もちろんですよ。安心してください。できる気配は一切ないので!」

綾乃「そんなの分かんないよ。えま可愛いんだから!」

勇輝「先輩、まだ彼氏できないんですか? もう9月も終わりますけど。大学入って何ヶ月経ちましたっけ?」

綾乃「うるさい! そもそも私の周りに男が少ないの! 学部も女子ばっかだし!」

勇輝「出たー。聞いてて辛い言い訳。全米が泣きますね」

綾乃「それが困ってる先輩にかける言葉なわけぇ⁉︎ そんなこと言うなら、誰か紹介してよ!」

勇輝「年下になりますよ」

綾乃「年下って言っても、勇輝の友達ならせいぜい1個下とか2個下でしょ? それくらいなら、まぁ」

勇輝「(小声で)なんだ。そうなんだ」

えまと舞、顔を見合わせてニヤニヤする。
勇輝、えまの視線に気づく。

勇輝「……(照れ臭そうに)なんだよ」

えま、ニヤニヤしながら首を横に振る。

えま「別にぃ?」

舞「あ、お客さん来たよ」

綾乃、レジに戻る。
勇輝もドリンクの準備をする。

えま「じゃあ、私も行ってきます」

舞「うん。楽しんでおいで」

舞、手を振って見送る。

勇輝「見てくださいよ。すげぇ……どんだけ祝ってもらえんだよ田中陽斗」

勇輝、SNSのタイムラインを舞に見せる。
陽斗の誕生日を祝うファンの投稿が続く。

舞「すごいみんな気合い入ってるねぇ。そうだ、うちも載せないと!」

舞、店のアカウントで写真を投稿。

【今日誕生日のみなさん、おめでとうございます!】と打ち、【#本人不在の誕生日会】【#田中陽斗生誕祭2023】【#亜蘭生誕祭2023】とつける。

勇輝「絶対ケーキの注文増えますよ」

舞「もしそうなったらえまにボーナスあげなきゃね。『1人とか2人でも食べきれるサイズのホールケーキ作ってください』って言ってくれたおかげだし」

勇輝「そんな今日、人が足りないって言われて急遽シフト入った俺にもボーナスお願いします」

勇輝、ニコニコしながら手のひらを見せる。

舞「それは本当に助かった! ありがとね!」

舞、勇輝の手のひらにパシンと手を置いてバックヤードに戻る。
勇輝の手のひらには銀紙に包まれたチョコレートが1つ乗っている。
勇輝、綾乃の方へ歩いて行く。

勇輝「先輩、口開けて。はい、あーん」

綾乃「はっ? あ、あーん」

綾乃が口を開けると勇輝がチョコレートを放り込む。

勇輝「さっきからかったお詫びです」

綾乃「全然反省してるようには見えないけどネ」

綾乃、もぐもぐと口を動かす。

勇輝「美味いですか?」

綾乃「うん! 美味しい!」

勇輝、嬉しそうな綾乃を見て頬を緩める。


○鮨屋・店内(夜)

カウンターのみの狭い店内。
宮本とユニクラウンのメンバー5人で貸し切り。
大将を囲むようにカウンターに座る。
後ろには撮影スタッフがカメラを回す。

陽斗「んー! うまッ!」

陽斗の幸せそうな顔がアップになる。

翼「陽斗めっちゃいい顔してんじゃん」

凛太郎「大将、俺もはるピーと同じの欲しいです!」
と、手を挙げる。

大将「はいよ!」

柊也「このさ、ガリも美味くね?」

悠真「分かる。ガリも握りにしてほしい」

大将「握りましょうか?」

悠真「マジですか!」

翼「大将ノリ良すぎですよ」

宮本、5人を見ながらムズムズする。

翼「(カメラに向かって)さっきから社長がさ、カメラの方にいらっしゃるんだけど。喋りたくてうずうずしてんのが見えるのよ」

柊也「みなさんね、もちろん会ったことないと思うし顔も見たことないだろうから教えるとね。本当はこんな大人しくしてられる人じゃないんですよ。こんな静かなのは奇跡!」

凛太郎「社長、翼くんこんなこと言ってるけどどうですか?」

宮本「(掠れた声で)……喋りたい」

一同、爆笑する。

×  ×  ×

食事が終わって帰る準備をする。
陽斗、えまのメッセージに気づく。

〈陽斗:ありがと! 何時に帰って来る?〉と返信。

陽斗「あ、最後みんなで写真撮っていいですか? ブログにあげたくて」

柊也「いいじゃん撮ろ」

宮本「俺映らないから撮るよ」

翼「社長も入りましょうよ」

陽斗「じゃあ投稿用とプライベート用2枚撮りましょ」

ユニクラウンのメンバー、大将、宮本、スタッフが壁に並ぶ。
板前がスマホを構える。

悠真「せっかくだし、タイマーにしません?」

陽斗「確かに。板前さんも入ってください」

悠真、板前からスマホを預かってタイマーをセットする。

悠真「5、4」
と、カウントしながら板前と壁に並ぶ。

全員「3、2、1!」

スマホからカシャっという音がする。


○カラオケ・えまの部屋(夜)

黒で飾りつけされた部屋。
【Happy birthday】の文字が壁にかけてあり、2と6のバルーンが貼られている。
テーブルにはピザやナゲット、亜蘭のケーキ、ドリンクが並ぶ。
えまと桃香、ケーキを食べながら撮影した写真を見る。

桃香「そういえば、田中さんにはおめでとうって言えたの?」

えま「私が起きた時にはもういなかったから直接は言えてない! 一応メッセージは送ったんだけど、さっき見た時は既読もついてなかったんだよね」

えま、メッセージを確認する。

えま「あ! きてた!」

えま、桃香に画面を見せる。

桃香「なになに。『ありがとう。何時に帰って来る』だって! 絶対えまに祝ってもらうの楽しみにしてるんだよ! もうこんな時間だし早く帰ろ! ケーキとプレゼント渡さなきゃ!」

桃香、テーブルを片づけ始める。

えま「喜んでくれるかな……」
と、不安そうな顔をする。

桃香「絶対大丈夫だから!」

えま、頷いて片づけをする。