○宮本家・えまの部屋(夜)

えま「う~~ん……」

えま、腕を組んでローテーブルに並んだうちわと睨めっこ。
うちわにはそれぞれ【はるピー】【投げちゅーして】【幸せをありがとう】の文字。
段ボール箱にはツアーグッズのペンライトや陽斗の写真のうちわが入っている。


○同・リビングダイニング(朝)

えま、制服を着てバタバタしながらダイニングに入って来る。

えま「やばい! 寝坊した!」

テーブルの上にはトースト、フルーツ、サラダが並んでいる。

美香「昨日遅かったの?」

えま「ライブのうちわ作ってたら遅くなっちゃった!」

美香「うちわもいいけど、勉強は? 試験近いでしょ」

えま「らいひょぶらいひょぶ」

えま、口の中にパンを詰めこみながら答える。
美香、怪しむ目で見る。

美香「あんまり点数悪かったらライブもバイトも考えるからね」

えま「ん゛⁉︎」

えま、口いっぱいに詰め込んだまま固まる。

美香「ちゃんと勉強しなさいよ~」
と、キッチンにお皿を下げに行く。

えま、口の中身をゴクリと飲み込む。


○事務所・レッスン室

ユニクラウン、鏡の前でダンスの振りを確認する。
柊也、スタッフと進行表を見ながら打ち合わせ。

悠真「そういえば、もちろんえまちゃんもライブ来るんだよね?」

陽斗「うん、多分」

悠真「関係者席なら見つけやすいね」

翼「陽斗、ちゃんとファンサしてやれよー?」

凛太郎「俺も見つけたら手振ろーっと!」

陽斗「あーそっか。確かに、関係者席ならすぐ分かるな」
と、呟く。

柊也「ごめんみんな。ちょっと相談なんだけど!」

メンバー、立ち上がって柊也の周りに集まる。

×  ×  ×

ユニクラウン、帰り支度をする。
佐藤、陽斗に近づく。

佐藤「陽斗さんお疲れ様です」

陽斗「お疲れさま」

佐藤「前の家に似てる感じの部屋でいくつか物件ピックアップして送っといたので、時間ある時ぜひ見てください」

陽斗「マジ助かるわ。ありがと」

翼「(ふざけながら)うぇー! 陽斗もとうとう1人暮らし始めんの?」

陽斗「とうとうって、元々1人暮らししてたから」

悠真「このまま社長の家に住むのかと思ってた」

陽斗「そんなわけないじゃん」

凛太郎「でも寂しくなるね?」

凛太郎、ニヤけながら陽斗の頬を指でツンツンする。

陽斗「なんだよ」
とスマホで物件情報に目を通す。


○宮本家・えまの部屋(夜)

えま、イヤホンで音楽を聴きながら机で勉強をしている。
スマホの時刻は21:00を指している。
スマホで曲順を操作してからSNSを開く。

×  ×  ×

えま、机に肘をついてSNSを見ている。
時刻は9:30を指している。
えま、画面上部の時間を見て、

えま「ダメダメ!」
と、スマホの画面を下にして机に置き勉強に戻る。

×  ×  ×

集中して勉強しているえまの横顔。

えま「ふぅ」
と、スマホの画面を見る。

時刻は10:30を指している。
えま、顔を上げると、机や壁に陽斗のブロマイドやアクスタが飾ってある。
えま、ニコッと笑って配置を修正し始める。
そしめ立ち上がり、棚のCDやDVD、雑誌の整理を始める。

えま「懐かしー!」

えま、雑誌をめくって読み始める。

×  ×  ×

えま、雑誌から顔を上げてスマホを確認する。 
時刻は23:00。

えま「もうダメだ! ここには誘惑が多すぎる!」

えま、スマホと勉強道具を持って部屋を出る。


○同・リビングダイニング(夜)

部屋には誰もいない。
カーリーがケージの中で寝ている。
えま、ダイニングテーブルに勉強道具を置き、リビングのローテーブルにスマホを置く。

えま「この距離ならBluetoothギリ届くよね」

えま、勉強を再開する。


○同・玄関(夜)

陽斗、鍵を開けて帰って来る。

陽斗「(小声で)ただいま……」

陽斗、靴を脱いで上がる。


○同・リビングダイニング(夜)

陽斗、ダイニングへ行くとテーブルで真剣に勉強しているえまの姿。

陽斗「ただいま……」

えま「……」

えま、陽斗に気づかない。


○同・キッチン(夜)

陽斗、冷蔵庫からお茶を出す。
食器棚からコップ2つと取り出してお茶を入れる。


○同・リビングダイニング(夜)

陽斗、コップを2つ持ってえまの前に座る。
えま、顔を上げてイヤホンを外す。

えま「あ! おかえりなさい。お疲れ様です」

陽斗「ただいま。ごめん集中してたのに。お茶飲む?」

えま、頷く。
陽斗、えまにコップを1つ渡す。

えま「ありがとうございます」
と、お茶を飲む。

陽斗「えまがここで勉強するの珍しいね」

えま「自分の部屋でやってたんですけど、あっちには誘惑が多すぎて……」

陽斗「なるほど」

陽斗、えまを見ながらお茶を飲む。
えま、視線が気になって目が泳ぐ。
陽斗、机の上に置かれたイヤホンを見て、

陽斗「何聴いてたの?」

と、えまが外したイヤホンに手を伸ばして自分の耳に入れる。

えま「あ!」
と、手を伸ばす。

陽斗「お、hello worldじゃん。いいね」

陽斗、リズムを取りながら口ずさみ始める。

えまも陽斗を見てもリズムに合わせて横揺れする。

えま「東京ドームライブ。楽しみです」

陽斗、微笑む。

陽斗「今日みんなで『関係者席だからえまのことすぐ分かるね』って話してたんだ」

えま「え? 私、関係者席じゃないですよ?」

陽斗「え?」

えま「自名義でしっかり当てたので!」

陽斗「なんで⁉︎ 関係者席でいいじゃん! さすがにドームで『えまをさがせ』は激ムズだよ。3万人だもん」

えま「だってぇ、関係者席じゃはしゃげないし。ファンとして、やっぱり自分で当てたチケットで行きたいんです!」

陽斗「えぇ……じゃあ、なんとしても3万人の中から見つけるわ」

陽斗、えまの方に小指を差し出す。

えま「(嬉しそうに)指切りしちゃって大丈夫ですか?」

陽斗「うん。なんかいける気がする」

えま、フフッと笑って小指を絡める。

陽斗「ねぇ、どこらへんかだけヒント欲しい! 上手側~とか」

えま「ん~。わりと前の方です!」

陽斗「わりとって何⁉︎」

歓談する2人の様子。


○学校・教室

テスト中のクラス。

谷「よーし時間だぞ。もうペン置けよー。粘っても大して点数は変わらないんだから、諦めろー」

担任・谷口和馬(36)が教卓に立ってクラスに呼びかける。
生徒がざわめく。

男子1「谷先ひど! それが可愛い生徒にかける言葉かよー」

女子1「覚えたところ全然でなかったんだけど」

女子2「私絶対赤点だぁ」

谷口、教室を回りながらテスト用紙を回収する。
桃香、離れた席のえまに口パクとジェスチャーをする。

桃香「(口パクで)えまどうだった?」

えま「(口パクで)セーーフ!」
と、腕を横に広げて見せる。

桃香、指でグッドマークをつくる。
えま、やりきった顔で黒板横の掲示板に貼ってあるカレンダーを見る。
10月のカレンダーには【3日 谷先結婚記念日】【7日 美和子BD】【13日 サッカー部大会】【15日 試験ぴえん】【20日 ユニクラウン東京ドーム♡】と書き込まれている。


○ミラベル・店内(夜)

えまと桃香、座ってドリンクを飲む。

えま「試験お疲れ~」

桃香「かんぱーい!」

えま、ニヤニヤしながらドリンクを飲む。

桃香「顔、溶けそうなくらい緩んでるよ」

えま、頬を押さえる。

えま「え~だってしょうがないよぉ。テストも終わって、もうすぐ待ちに待ったドーム公演なんだもん!」

えま、喜びを噛みしめる。

桃香「今回いい席だったんだもんね。田中さんにちゃんと言った? 私ここにいますよーって」

えま「言ってない! けど、絶対見つけるって言ってくれた」

桃香「キャーーー! なんからすっごいキュンとした! どんどん距離縮まってるねぇお2人さん」

桃香、ニヤニヤする。

えま「(ニヤけながら)そんなことはないよぉ」

綾乃「な~に~? 彼氏の話でしょ?」

綾乃、ケーキを運んでくる。

えま「先輩!」

桃香「こんばんはー!」

綾乃「ねぇ、えま絶対彼氏の話してたんでしょ?」

綾乃、桃香に聞く。

桃香「彼氏……ではないですね」

綾乃「え~ほんとかなぁ」

桃香「(ニヤけながら)彼氏……になっちゃうかもしれないですけど!」

綾乃「その話詳しく!」

えま「ちょっと桃香!」

えま、慌てる。
綾乃、えまをじーっと見つめる。

えま「先輩、大丈夫ですから! 私はほら、陽斗くん一筋ですから!」

えま、スマホで陽斗の写真を見せる。

綾乃「でもその人はアイドルでしょ? もし彼みたいな人が突然現れたらどうする? 好きになっちゃうんじゃない?」

桃香「そうですよねぇ」
と、クスクス笑う。

えま「え……? いや……」
と、何気なく入口の方を見る。

ドアから変装した陽斗が入って来る。
えま、ギョッとする。


○同・レジカウンター(夜)

陽斗、えまを探しながらレジに近づく。
カウンターにいた舞と勇輝、不思議そうに陽斗を見つめる。

舞「お決まりでしたらお伺いします」

陽斗「あっ……」

陽斗、メニューを見る。

陽斗「アメリカン1つ、テイクアウトでお願いします」

舞「アメリカンテイクアウトですね。かしこまりました。400円になります」

陽斗、支払いをしてお渡し口の方へ向かう。

勇輝「アメリカンテイクアウト用でお作りしてます」
と、カップにコーヒーを入れる。

えま、待っている陽斗に近づいて肩をトントンとする。
陽斗、振り返る。

陽斗「あれ。今日シフトじゃなかったんだ」

えま「(小声で)はい。今日は友達と来てて」

えま、桃香の方を見る。
陽斗も桃香の方を見ると桃香が会釈する。
陽斗も軽く頭を下げる。

えま「まだお仕事なんですか?」

陽斗「そう、これからリハあって」

えま「無理しないでくださいね」

陽斗「うん。ありがと」

勇輝、えまと陽斗を見ながら

勇輝「お待たせいたしました。テイクアウトのアメリカンです」
と、陽斗にカップを渡す。

陽斗「ありがとうございます」

えま「じゃあ、頑張ってください!」

陽斗「ありがと」

陽斗、店を出ていく。
えまも席に戻って行く。
綾乃、店を出た陽斗を見ながらカウンターに戻って来る。

綾乃「ねぇ、今の人って本当にえまの彼氏じゃないの?」

勇輝「さぁ?」

綾乃「えまがシフト入ってる時とかたまに来る人だよね」

勇輝「あーそうだ。なんか見覚えあると思った」

綾乃「絶対彼氏だよ! ちょっと年上っぽかったから、きっと秘密の交際なんだって! 今度えまに聞いといて!」

綾乃、興奮しながら言う。

勇輝「何で俺が。そういうのは女同士の方が絶対話しやすいでしょ」

綾乃「もし本当に彼氏だったら、私には言いにくいかもしれないでしょ?」

勇輝「(ニヤニヤしながら)あぁ~。先輩まだ彼氏できてないですもんね?」

綾乃「ムカつくけど言い返せないのがさらに悔しい!」

綾乃、勇輝を睨む。

勇輝「でもアイツ、本当に田中陽斗しか見えてない筋金入りのオタクだからなぁ。普通の男のこと好きになるの想像つかない」

綾乃、えまたちを見る勇輝の横顔を見る。


○同・店内(夜)

えまたちの席。

桃香「田中さんなんだって?」

えま「今からリハなんだって」

桃香、驚いてスマホの画面で時間を確認する。

桃香「ウソ! この時間からまだ仕事なの⁉︎ だってもうすぐ20時だよ?」

えま「多分みんなそれぞれ忙しいからメンバーで揃う時間が限られてるんだと思う。こういうの結構普通なの。ドラマとかが重なると家帰って来るの12時超えることなんてしょっちゅうだし。大変だよね、芸能の人って」

桃香「そうなんだぁ……じゃあ疲れて帰って来る田中さんをえまが癒してあげないとね」

えま「い、癒す⁉︎」


○(えまの妄想)宮本家・陽斗の部屋(夜)

陽斗「あぁ疲れたぁ~~~」
と、ベッドに横になっている。

えま、目が泳ぐ。

陽斗「来ないの?」
と、自分の隣をトントンとする。

えま、ゴクリと喉を鳴らして陽斗の隣に横になる。

えま「失礼します……」

陽斗、えまを後ろから抱きしめる。

陽斗「あ~癒される。やっぱりえまを抱き枕にしないと疲れとれないわ。このまま寝れる」

えま、真っ赤な顔を手で覆い隠しながら、

えま「私は一晩寝れそうにありません」
と、呟く。
(えまの妄想終了)


○ミラベル・店内(夜)

えま、顔を真っ赤にして一点を見つめている。

桃香「ヤダぁ、えまったら! どんなこと想像したわけぇ~?」

えま「別に! 何も想像してないよ!」

えま、誤魔化すようにドリンクを飲む。


○宮本家・えまの部屋(夜)

えま、机に向かってノートにアイデアを書く。
ノートには【食べ物差し入れ】【癒しグッズプレゼント】と書かれている。

えま、煮詰まってノートに落書きを始める。
クマらしき独特な動物の絵。

えま「別に癒しにはならないかもしれないけど……」
と、何か閃いた顔。

えま、メモを取り出して何かを書き始める。


○同・陽斗の部屋の前(深夜)

陽斗、部屋の前まで歩いてくる。
ドアにメモが貼ってある。
テープを剥がして読む。

【陽斗くんお疲れ様です! もうすぐ東京ドームですね。絶対に私だって分かるうちわを作ったので、見つけてもらえると嬉しいです。どうか無事にツアー完走できますように。おやすみなさい】

メッセージの最後にはクマもどきの独特な動物の絵が描かれている。
陽斗、フッと笑う。

陽斗「お前、あの時のカップのやつじゃん」

と、メモに書かれた動物を優しくなぞる。

陽斗、えまの部屋を見る。

陽斗「任せとけ」

と、えまの部屋に向かって拳を突き出す。


○同・えまの部屋(深夜)

ベッドですやすや眠るえま。


○同・えまの部屋(翌日)

テーブルの上にはメイクポーチから溢れたメイク道具や鏡。
えま、ラグに座り鏡を見ながらカラーコンタクトを入れる。

えま「つけまはやりすぎかな?」
と、つけまつげは仕舞う。

えま、目を大きく見開いてマスカラを塗る。
部屋の外から美香の声。

美香の声「えまー! そろそろ行くわよー」

えま「はーい!」

えま、ドアに向かって叫ぶ。
リップを塗ってニコッと笑う。


○東京ドーム・外観

物販のテントと長蛇の列。
あちこちでグッズを持って写真を撮るファンの姿。


○同・控え室

柊也、ストレッチをしている。
悠真と翼、エナジードリンクで乾杯して一気飲みしている。
凛太郎、イヤホンで音楽を聴きながら振りの確認。
陽斗、鏡の前でメイクさんにメイクを直してもらっている。
スタッフがドアの所にくる。

スタッフ「スタンバイお願いします!」

ユニクラウン、バラバラに返事。

柊也「よし! みんな集まって!」

柊也の周りにメンバーが集まる。

柊也「ツアーファイナル! ぶちかまそうぜ! いくぞユニクラウン!」
他のメンバー「っしゃあ!」

メンバー、部屋を出ていく。


○同・会場内

えまと美香、会場前方のアリーナ席に座る。

美香「すごい近いね!」

えま「でしょ~? ママが強運に産んでくれたおかげだよ!」

美香「でも友達と来なくて本当に良かったの?」

えま「だって私オタ友ほとんどいないんだもん。ママも知ってるでしょ?」

美香「でも前クラスに陽斗くん好きな子がいるって言ってなかった?」

えま、周りを気にしながら、

えま「(小さい声で)その子はね、同担拒否って言って、簡単に言うと推しが被ってる人とは関わりたくないタイプの子なの」

美香「色々複雑なのねぇ」
と、頷く。

えま「そう! オタクの世界は大変なの」

美香「そうだ。終わったら楽屋挨拶行くからね。パパが来れないから代わりに」

えま「……えっ⁉︎ 楽屋⁉︎ だからそういう大事なことはもっと早く……!」

挙動不審のえま。
会場の照明が暗くなり音楽が鳴り始める。
えま、ステージの方を見る。
ステージにプロジェクションマッピングが映し出され、ユニクラウンが現れる。

観客「キャァーーーーーッ!」

甲高い歓声が響き渡りライブが始まる。
えまもペンライトとうちわを握ってステージに釘付け。
ユニクラウン、歌いながらキレキレのダンスを披露。

×  ×  ×

陽斗、歌いながらえまの方に向かって歩いてくる。

えま「(陽斗くんだ!)」

えま、陽斗に向かってうちわを振る。
陽斗、観客を見ながら手を振る。

陽斗「(いた!)」

陽斗、うちわを持ったえまを見つける。
うちわには【えまを探せ大成功!】と書かれている。

陽斗「(口パクで)見つけた」

陽斗、えまに向かってニコッと笑いながら指をさす。
えま、陽斗に向かって嬉しそうに笑う。

美香「(陽斗くん!)」
と、えまにジェスチャー。

えま、嬉しそうに頷いてペンライトを振る。
陽斗、えまの隣を見てバーンと撃ち抜くポーズをする。

×  ×  ×

凛太郎が歌いながら歩いてくる。
えまに気づいて手を振る。

えま「(凛くん!)」

えま、凛太郎に手を振り返す。

×  ×  ×

ステージに横並びになるユニクラウン。

陽斗「よくみんなで、『いつかドーム公演したいね』って話してました。でもまだデビューもしていなかったあの頃の俺らにとって、それは夢のまた夢の話でした」

凛太郎「でも今こうして一つずつ本当に夢が叶っているのは、ファンの皆さんの応援があったからです」

翼「いつも本当にありがとー!」

悠真「これからもでっかい夢掲げて突き進んで行くんで、ついてきてくれると嬉しいです」

陽斗「ていうか絶対ついてこい!」

歓声が上がる。

柊也「今日は俺らに最高の景色を見せてくれてありがとう! そしてこれからもよろしくな!」

ユニクラウン、全員で手を繋いでお辞儀。
観客、拍手喝采。
えま、目に涙を浮かべて拍手する。

翼「それじゃあアンコール行くぜー!」

観客の歓声。

音楽が鳴り、歌い始めるユニクラウン。

×  ×  ×

会場が明るくなり退場のアナウンスが流れる。

ファン「やばい! はるピーにファンサしてもらえた……」

ファン、口元を押さえて感動する。

ファン「見た見た! 絶対まりんに向けてバーンってやってたもん!」

えま、隣の女子2人をチラッと見る。
女子の手には【決めポーズして】と書かれたうちわ。

美香「陽斗くんと凛くん、気付いてくれてたね」
と、えまに耳打ちする。

えま「(嬉しそうに)うん!」


○同・関係者エリア(夜)

美香とえま、スタッフに連れられて廊下を歩く。

スタッフ「お疲れ様です」

美香「お疲れ様」

えま「お疲れ様です」

スタッフが行き交う廊下を進む3人。
スタッフ、ユニクラウンの控室の前で止まりドアをノックする。

スタッフ「社長の奥様とお嬢さんいらっしゃいました」

えま、ゴクリと唾を飲みこむ。
スタッフ、ドアを開ける。
ユニクラウン、全員立ってお辞儀する。

ユニクラウン「お疲れ様です!」

美香「お疲れ様―! ライブすごく良かったよ!」

えま、美香の後ろから顔を覗かせる。

えま「お疲れ様です!」

翼「えまちゃん!」

凛太郎「えまちゃん俺が手振ったの見えた?」

えま「はい見えました! ありがとうございました!」

悠真「ウソ! 俺全然見つけれなかった。どこにいた?」

凛太郎「アリーナにいたよね? 結構前の方」

えま「はい!」

悠真「関係者席じゃなかったんだ⁉︎」

柊也「陽斗は知ってたの?」

陽斗「……関係者席じゃないっていうのは聞いてたけど、まさかアリーナだとは思わなかった」

翼「お前、知ってたなら教えとけよ!」

翼、陽斗の頭をぐりぐりする。

えま「すいません! 私が秘密にしてたんです!」

悠真「いや、はるピー絶対わざとだから。えまちゃんのせいじゃないよ」

悠真、えまに耳打ちしてウインクする。

えま「わざと?」

悠真、ニコニコしたまま。
ドアをノックする音と同時にドアが開いて√A(ルートエー)のメンバー、森直哉(28)、小野寺遼(28)、金原夏樹(23)、大和が入って来る。

直哉「おつかれーっす」

柊也「おー! お疲れっす」

陽斗以外、ルートエーのメンバーの方へ行く。
陽斗、えまに近づく。

陽斗「見つけたって口パクしたの分かった?」

えま「もちろんです! どうでしたか? あのうちわ!」

陽斗「あんなうちわ初めて見たよ」

えま「やった~! 今回は3万分の1、唯一無二を目指したんです」

陽斗とえま、2人で笑い合う。

大和の声「あれ? もしかしてえまちゃん?」

えまと陽斗、声の方を見ると大和が立っている。

えま「うそ……ルトエーの大くんだ……」
と、口元を手で覆う。

大和、えまたちに近づく。

大和「やっぱりそうだ! 俺のこと覚えてない?」

えま「覚えてるも何も……(興奮して)ルートエーの瀬名大和さん、ですよね? もちろん存じ上げております!」

大和「まぁ間違いではないけど……今のだと30点かなぁ」

えま「えっと……え?」

大和「ほら、覚えてない? 昔事務所のパーティーで一緒に遊んだの。えまちゃんは確か小学校低学年くらいだったかなぁ」

えま、真剣に思い出す。

えま「あぁーっ! もしかして、あの時の大和くん⁉︎」

大和「そう! あの時の大和くんだよ! やっと思い出してくれたー」

えま「どうしよう……こんなことってありますか⁉︎」

えまと大和、盛り上がる。

陽斗「(つまんなさそうに)……なに、2人は知り合いなの?」

大和「俺らが高校上がったくらいだったかな? 事務所のパーティーにえまちゃんも来てて、まだ小学生だったから俺と夏樹で一緒に遊んでたんだ」

えま「そうなんです! でもまさか、あの時の大和くんと夏樹くんが、ルートエーの大くんとなっくんと同一人物だったなんて気づかなかったです!」

大和「それはちょっとショックだわぁ。あの時は『やまとくん』って俺の手握って離さなかったくせに~」

えま、頬を赤くして慌てる。

えま「ちょっと! もうそんな大昔のことは忘れてください!」

陽斗、2人のやりとりを黙って見つめる。

大和「逆にさ、2人は何繋がりなの?」

えま「いやぁ……あの、その……」

えま、陽斗の方をチラッと見る。

陽斗「今一緒に住んでる」

陽斗、大和を真っすぐ見て言う。

大和「え?」

えま「えっ⁉︎」

えま、陽斗の方を見る。
陽斗、何食わぬ顔。
えま、慌てながら、

えま「ちょっと事情があって。パパが急に連れてきて、しばらくうちに住むことになったんです。はい」

大和「へぇ……そうなんだ!」
と、陽斗を見つめる。

悠真の声「はるピー! 早く衣装脱げって!」

陽斗「わかった!」
と、悠真に返事をする。

大和「じゃあ俺もそろそろ帰るわ。陽斗、今日はお疲れ様! ライブ良かったよ。また飲みいこーぜ」

大和、陽斗の肩をトントンとする。

えま「私も帰ります! お疲れ様でした!」

陽斗「うん、ありがと……」

えまと大和、部屋を出ていく。


○同・廊下(夜)

廊下には美香とルートエーのメンバーがいる。

大和「俺らこれからマネージャーたちとご飯行くんだけど、えまちゃんも来ない?」

えま「そんなっ! 私なんかがルトエーの皆さんとお食事なんて恐れ多すぎます!」

大和「(わざとらしく)あ~俺えまちゃんに忘れられてて傷ついたのになぁ。でももしえまちゃんが来てくれれば、そのこと許そうかなぁ」

大和、片目を開けてえまを見る。

えま「うっ……それは……」

美香「せっかくだし行って来れば?」

えま「ちょっとママ!」

大和「美香さんも一緒にどうですか?」

美香「私は帰らないとなの。ワンちゃんがお留守番中だから。えまのことお願いしていい?」

大和「はい! 美香さんの許可も出たことだし、決まりということで。行こ!」

えま「それじゃあお言葉に甘えて……」


○高級焼肉店・個室(夜)

えま、ルートエー4人、マネージャー2人でテーブルを囲む。
大和、えまにタブレットメニューを渡す。

大和「はい。食べたいのあったら遠慮なく言ってね」

えま「ありがとうございます」

直哉「えまちゃん何飲む?」

えま「んーと……」

大和「ここノンアルも結構種類豊富なのよ」

えま「このベリーニ風ってどんなのですか?」

大和「ベリーニって確か桃? だっけ?」

夏樹「そ! 桃の甘いお酒。そのノンアル版って感じ! 普通に美味しいと思うよ」

えま「じゃあ私ベリーニにします!」

直哉「うっし! 肉はテキトーにいつもの感じで。えまちゃん食べたいものとか逆に食べれないものとかある?」

えま「いえ! 何でも食べれるのでみなさんにお任せします」

遼「いま直(なお)『うっし』って言った? 牛肉だから? 牛でうっし? やっぱさすがだなぁ」
と、ふざけ始める。

夏樹「うわほんとだ! よく気づいたな!」

夏樹、遼にノる。

直哉「お前らいつものノリやめろって。えまちゃんに引かれるだろ」

直哉、ニヤけながらタブレットで注文する。
えま、クスクス笑いながら、

えま「ルトエーのみなさんって動画だけじゃなくて普段からこんなに面白いんですね」

大和「えまちゃん俺らのチャンネル見てくれてるの?」

えま「はい! いつも笑いながら見てます!」

夏樹「それは嬉しいなぁ」

遼「(ふざけて)じゃあ今日は俺らが奢るんで、好きなだけ食べてください!」

直哉「当たり前だよ!」

直哉、遼の頭を叩いてツッこむ。
えま、楽しそうに笑う。
大和、えまの横顔を見て微笑む。

×  ×  ×

大和、肉を焼きながら、

大和「えまちゃん今日関係者席いた? 俺気づかなったんだけど」

えま「私ファンクラブ入ってるので、関係者席じゃなくて、自分で当てた席で見てました!」

直哉「自分で当てたの? すげーね。倍率エグいでしょ?」

えま「はい。年々エグくなってますね」

大和「まさかのユニ担だったんだ」

えま、照れ臭そうに頷く。

夏樹「でもそしたら関係者席の方が良くない? ユニクラとほぼ確実に目合うよ」

えま「ここはオタクとして絶対自分で掴んだチケットで参戦したくて!」

遼「超健気じゃん! ちなみに誰担なの?」

えま「田中担です!」

大和「ほぉ」

直哉「はるピーなぁ。あいつカッコいいもんな」

夏樹「ねぇ! じゃあさ、ルートエーだったら誰推し?」

えま「……やっぱり、大くんですかね?」

大和「よっっし!」

大和、ガッツポーズする。

直哉「ズリーよ。だって大和はえまちゃんと知り合いだったんだろ? それはフェアじゃねーって」

大和「それを言うなら、夏樹も一緒に遊んでたけどな」

遼「(笑いながら)選ばれなかった男……」

夏樹、ショックを受けたフリをする。

えま「(慌てて)いえ! そういうことじゃなくて!」

夏樹「じゃあ、俺と夏樹だったらどっち?」

えま「それなら……」

えま、夏樹の顔を見る。
夏樹、満面の笑みで「俺、俺!」と自分を指さす。

えま「(ニヤけながら)やっぱり大くんです!」

大和、ドヤ顔で静かに手を挙げる。

夏樹「おいーー!」

夏樹、わざとがっかりする。
遼、手を叩きながら笑う。

直哉「えまちゃん超バラエティーできるじゃん」

一同、盛り上がる。


○同・店の外(夜)

マネ1「じゃあ私はえまちゃん送るから」

大和「俺も方向一緒だから乗るー」

マネ2「じゃあ他は俺が送って行くよ」

直哉「じゃーねえまちゃん!」

夏樹「お酒飲めるようになったら一緒に飲もーな!」

遼「バイバーイ!」

えま「はいぜひ! ありがとうございました! ごちそうさまです!」

えま、手を振る。


○道路・車内(夜)

窓の外に東京の夜景が流れる。
えまと大和、後部座席の真ん中を開けて座る。

大和「今日急に誘っちゃってごめんね」

えま「いえ! すごく楽しかったです!」

大和「でもまさかユニクラウンのライブで再会できるなんて夢にも思わなかったよ」

マネ1「小学生以来ってことは、10年ぶりくらいなの?」

マネ1、フロントミラー越しに話しかける。

えま「多分あの時7歳とかそれくらいだったからそうですね。ちょうど10年ぶりくらいです!」

大和「そして10年ぶりに会ったらまさかのユニ担だし。今日のライブはどうだった?」

えま「もう最っっ高でした! ライブ行くたびに『ユニクラウンって本当に存在してたんだ』って感動しちゃいます。いつもたくさん元気をもらえて、やっぱりアイドルってすごいですね!」

えま、目を輝かせながら語る。

大和「本当にユニクラ大好きなんだね」

えま「(自信満々に)はいッ!」


○宮本家・車寄せ・車内(夜)

車が建物の前に停まる。

マネ1「とうちゃーく!」

えま「送ってくださってありがとうございました!」

えま、シートベルトを外す。

マネ1「いいのいいの! 私も上まで行こうか?」

えま「いえ! 母にも連絡してるので大丈夫です。大くんもマネさんも気をつけて帰ってください!」

大和「今度俺らのライブも来てよ。ユニクラに負けないくらい楽しいから! はい、約束!」

大和、えまに小指を差し出す。

えま「はい! 絶対行きます!」

えま、小指を絡める。
大和、ニコっと笑う。
えまが車を降りると助手席と後部座席の窓が開く。
えま、手を振りながら、

えま「おやすみなさい!」

大和「おやすみ!」

マネ1「美香さんによろしく伝えてね」

車が発進する。


○同・玄関(夜)

えま、ドアを開けて帰って来る。

えま「ただいまー!」
と、靴を脱ぐ。

カーリーが吠えながら走って来る。

美香「おかえりー! 楽しかった?」

美香も玄関に来る。

えま「うん! すごい楽しかった!」

美香「良かったね」


○同・リビングダイニング(夜)

えま、カーリーを抱っこして美香とリビングへ入って来る。

美香「どうだった? 楽しかった?」

えま「うん。超楽しかった! ルトエーのみんな、ほんと動画と同じノリで。仲良いし、面白いし!」

美香「良かったわね」
と、微笑む。

えま「でもあの時遊んでくれてた大和くんと夏樹くんがルトエーだったなんてビックリだよ。気づかなかったなぁ、というよりまさかそうだとは思いもしなかった!」

えま、カーリーをケージに入れる。

美香「……もしかしたら意外と、えまがあの頃会ってた人が他にもいるかもよ~?」

えま「確かに! だとしたらすごいねぇ」

えま、両手で頬を押さえる。

えま「私、お風呂入って来るね。すごい焼肉の匂いする」
と、服の匂いを嗅ぎながら浴室へ向かう。

美香、えまの背中を見送りながら、

美香「まぁ、覚えてないのも無理ないか」


○(美香の回想)ホテル・パーティー会場外

絨毯の広間。
えま(7)、よそゆきのワンピース姿で走る。

えま「ママー! 待ってー!」

えま、男子3人とすれ違う。
えまの髪についていたリボンがひらりと落ちる。
一番後ろを歩いていた陽斗(16)、落ちたリボンを拾う。

陽斗「待って!」

陽斗、えまを呼び止める。
えま、立ち止まって陽斗の方を振り返る。

えま「?」

陽斗、えまに近づいてしゃがむ。

陽斗「……これ、落ちたよ」
と、えまにリボンを差し出す。

えま「……せっかくママが可愛くしてくれたのに、とれちゃった……」

えま、悲しそうな顔をする。

陽斗「……俺がつけよっか?」

えま、コクりと頷く。
陽斗、えまのポニーテールのゴムにリボンを結ぶ。

陽斗「はい、できた」

えま「ありがとうお兄ちゃん!」

えま、ニコッと笑う。

陽斗「どういたしまして」
と、笑顔になる。

翼の声「おーい陽斗! 置いてくぞ」

美香の声「えまー!」

えまと陽斗、それぞれを呼ぶ声に反応する。

えま「お兄ちゃんバイバイ!」

陽斗「バイバイ」

えまと陽斗、反対方向に走って行く。

×  ×  ×

美香、陽斗の後ろ姿を見つめる。

えま「ママ―!」
と、走って来て美香の手を握る。

美香「あのお兄ちゃんにつけてもらったの?」

えま「うん!」

えまと美香、歩き出す。


○(美香の回想)宮本家・リビングダイニング(朝)

美香、ソファに座って朝のニュース番組を見ている。

アナウンサー「今朝4時解禁。ユニクラウンのデビューシングルhello worldのミュージックビデオが解禁されました」

ミュージックビデオが流れる。
メンバーのアーティスト写真が表示される。
美香、陽斗を見て、

美香「あれ、この子! あの時の……!」

美香、にっこり笑って立ち上がる。

(美香の回想終わり)