○トイレ・パウダールーム内

制服を着た宮本えま(17)が鏡の前でメイクをしている。

えま「どう? 変じゃない?」
と、親友・高橋桃香(17)に尋ねる。

桃香「バッチリ。超可愛いよ!」

えま、はにかむ。

桃香「じゃあ、会いに行きますか」
と、えまの両肩に手を置く。

えま「はい! お願いします!」


○渋谷スクランブル交差点・歩道

信号待ちをしている歩行者の先頭にえまと桃香。
大型ビジョンを見上げている。
桃香、眩しそうに太陽を手で遮りながら、

桃香「おぉー!」

ビジョンにはUNiCrown(ユニクラウン)のプロモーションビデオが流れている。
えま、スマホで動画を撮りながら無言で感動を噛みしめる。
アイドル・田中陽斗(25)がアップで映る。
えま、満面の笑み。

桃香「田中さんも通りすがりに見に来てたりしないかな……?」

桃香、信号待ちしている人たちをキョロキョロ見る。

えま「さすがにこんな人が多い所には来ないよー! ていうか来れない!」

桃香「そりゃそうか。気づかれたら大パニックだもんね」


○同・車道

車用信号が赤になり、黒い乗用車が停止線で止まる。
運転席にはマネージャー・佐藤大樹(23)の姿。
後部座席はスモークガラスで見えない。


○同・横断歩道

歩行者用信号が青に変わり歩行者が渡り始める。
えまと桃香も歩き出す。

桃香「まずはどこから?」

えま「とりあえず、タワレコかな!」

桃香「りょーかい!」


○同・車道・乗用車車内

陽斗、後部座席の窓から大型ビジョンを見上げる。
ビジョンにはユニクラウンのプロモーションビデオが流れている。
佐藤、窓越しにビジョンを見上げて、

佐藤「映像流れてますね」

陽斗「写真撮っとこっと」

陽斗、スマホを構える。
メンバー・杉野翼(26)が映ったタイミングで写真を撮る。
陽斗、写真を見て口角を上げる。
車用信号が青に変わり、車が動き出す。


○テレビ局・スタジオ

歌番組の収録中。
ユニクラウンのメンバー・加藤柊也(26)、翼、佐々木悠真(25)、中村凛太郎(25)、陽斗が煌びやかな衣装を着て、キレのあるのダンスと歌を披露。
陽斗、カメラアップになりセクシーな表情を見せる。


○同・楽屋
ユニクラウンのメンバー、着替え中。

陽斗「ねぇこれ見て!」

陽斗、渋谷で撮った翼の写真を見せる。

柊也「(わざとらしく)よくいる顔だなぁー。この人陽斗の知り合い?」

悠真「(わざとらしく)この人なんか翼くんに似てない?」

凛太郎「(ニヤニヤしながら)佐々、それはこの人に失礼だよー」

翼「おーい! 公開悪口やめい! 失礼はお前だよ凛!」

翼、凛太郎の肩に手を回し、チョークスリーパーを決める。

凛太郎「ごめっ! ギブ! ギブ!」
と、翼の腕を叩く。

じゃれ合う2人を柊也、悠真、陽斗が微笑ましく見守る。

×  ×  ×

ダラダラ着替えるメンバー。
陽斗、一人着替えを済ませて荷物をまとめる。

柊也「陽斗この後移動?」

陽斗「そう。撮影入ってて」

陽斗、荷物を持って楽屋入口に向かう。

翼「陽斗ファイト―!」

悠真「はるピーお疲れ!」

凛太郎「はるピー頑張って!」

陽斗「サンキュー! お先!」

陽斗、楽屋を出る。

凛太郎「はるピードラマもあるし忙しそうだよね」

柊也「多分今この中で一番忙しいよな」

柊也、翼の方を向いて話す。

翼「俺もそれなりに忙しいからな⁉︎ 今日だって夜ラジオの収録あるし!」

柊也、ニヤけるのを必死に堪えて、

柊也「別に俺なんも言ってないじゃん!」

凛太郎「(ニヤニヤして)別に誰も疑ってないよ!」

翼「(嬉しそうに)おい! 笑ってんじゃねーか! みんな俺のことイジりすぎ。俺にこのイジりしていいのは世界で有吉さんだけだから!」

柊也「正直さ、杉野この前番組でイジってもらってから、このネタすっかり味を占めた感あるっしょ?」

凛太郎「絶対そうだよー! このネタでイジられてる翼くん、超生き生きしてるもん」

翼「いーだろ別に! せっかく俺が輝けるイジりを有吉さんが見つけてくれたんだから! みんなしてバカにしやがってー」

翼、納得いかない顔。

悠真「大丈夫、翼くんが頑張ってるのはみんな知ってるよ」
と、翼の肩をトントンとする。

翼「悠真、お前はほんといい奴だよ!」

翼、悠真の後ろから柊也と凛太郎を睨み見て舌をベーっと出す。
柊也と悠真と凛太郎、手を叩きながら爆笑する。


○CDショップ・店内

ユニクラウンの棚にはCDが敷き詰められ、店員のポップで飾られている。
えま、商品を陳列中の店員に話しかける。

えま「すみません。ここ写真撮ってもいいですか?」

店員「どうぞ」

えま、陽斗のアクリルスタンドをかざしながらブースを撮影。

えま「よしOK!」

桃香「次は?」

えま「次は地下鉄のとこの広告!」


○渋谷駅・副都心線・通行路

ユニクラウンの巨大広告とその前で撮影しているたくさんのファン。
えま、陽斗の写真の前で寄り添うように立つ。
手でハートマークを作ったり陽斗の頬に指を当てたりする。
桃香、えまの姿を撮影。

桃香「どうかな?」

桃香、スマホで撮った写真をえまに見せる。

えま「もうバッチリ! ありがとう!」

桃香「次は?」

えま「次はSUTAYA! そこで最後です!」


○渋谷SUTAYA・店内

ユニクラウンの書籍コーナーにメンバーが表紙の雑誌が陳列されている。
えまと桃香、陽斗の棚の前の列に並ぶ。

×  ×  ×

桃香、えまと陽斗の棚を撮影。

桃香「撮れたよ」

えま、写真を確認する。

えま「さすが桃香~!」

桃香「他はもう大丈夫なの?」

えま「(満足そうに)うん! ありがとう!」


○カフェ・店内(夕方)

えまと桃香、席に着く。
テーブルのドリンクの横に陽斗とキャラクター・亜蘭のアクリルスタンドを置いて各々撮影。

えま「付き合ってくれてありがとね!」

桃香「全然いいよ! 普通に楽しかったし。飲みたかったやつも奢ってもらっちゃったしね!」

えまと桃香、乾杯してドリンクを飲む。

桃香「それにしてもユニクラウンの人気はすごいね! 渋谷ジャックの規模もすごいし。さすがは天下のS.S(エスエス)エンターテインメント!」

えま「でしょ? どんどん派手な企画してくれるの。応援した分ちゃんとこっちに還元してくれるから本当にありがたい。もう課金が止まらな~い」

桃香「この前当たってたのは、今回発売のアルバムのツアーってことだよね?」

えま「そう! (小声で)今回めちゃくちゃいい席だったの!」

桃香「さすが。えまの運の強さは本物だね」

えま、ドヤ顔で頷く。
えまたちの斜め前に女子高生が2人、その会話が聞こえてくる。

女子1「ねぇ、昨日の見た?」

女子2「私もうあのドラマ見るのやめちゃった」

女子1「えー! 今すごい面白いのに!」

女子2「もう田中陽斗はいいって。見飽きた」

えま、【田中陽斗】の名前にピクっと反応する。
桃香、「あーあ」という顔で見守る。

女子1「確かに。ここ最近ドラマとか映画とかずっと出てるよね」

女子2「大して演技上手くないんだから、余計なことしないでアイドルだけやっとけよーって感じ」

女子2、悪気なく話す。

えま「(ニコニコしながら)ちょっと話つけてくるね」
と、立ち上がる。

桃香「コラコラ。落ち着きなさい」
と、えまの手を掴んで座らせる。

えま、反論したそうな顔で桃香を見る。

桃香「言いたいやつには言わせとけばいいよ」

えま、チッと舌打ちをする。

えま「一生息が臭くなる呪いかけてやる!」
と、女子高生を睨みながらストローを口に含む。

桃香「そんなおめめクリクリの子犬みたいな可愛い顔で舌打ちなんて絶対いけません! 禁止!」
と、えまの両頬をつまんで引っ張る。

えま「いひゃいいひゃい(痛い痛い)」

桃香、呆れ笑いする。

桃香「推しのこととなると、ちょーっとオラオラしすぎるのが唯一残念なんだよねぇ」

えま「普通でしょ? だってもし亜蘭くんに酷いこと言ってる人がいたらどうする? 桃香だって黙ってられないでしょ」

桃香「(真剣な顔で)うん、とりあえず『表出ろ』だね」

えま「桃香の方がよっぽど物騒じゃん」

えまと桃香、笑い合う。


○宮本家のマンション・外観(夜)

外門の奥に高層マンションがそびえる。


○同・宮本家・リビングダイニング(夜)

キッチンから見渡せる広々としたリビングダイニング。
ダイニングのテーブル上にはオシャレに盛り付けられた料理皿が並ぶ。
母・宮本美香(48)、皿の配置を変えながら、一眼レフで料理を撮影をしている。
美香の足元では犬のカーリー(5)がご飯を狙っている。

えま「ただいま~」
と、入って来る。

カーリー、えまに駆け寄る。

えま「ただいまカーリー。よーしよしよし」

えま、しゃがんでカーリーを撫で回す。

美香「(ニコッと)おかえり! ごはん食べる?」

えま「うん! 着替えてくるー!」

×  ×  ×

部屋着に着替えたえま、美香の前の椅子に座る。

美香「どうぞ召し上がれ」

えま「いただきまーす! 今日も今日とて美味しそ~」

えま、手を合わせておかずを次々と自分のお皿に乗せていく。

美香「桃香ちゃんとどこ行って来たの?」

えま「渋谷! もう超暑かったぁ~」

美香「まだ9月だからねぇ」

えま「今ユニクラが渋谷ジャックしてるの」

えま、美香にスマホで大型ビジョンの映像を見せる。

美香「わーすごいね! もしかしたら陽斗くんもお忍びで見に来てたりするんじゃない?」

えま「それ桃香も同じこと言ってた」

美香「そういう想像したり、好きな人が今何してるんだろうとか考えるの、楽しくなーい?」

えま「陽斗くん今何してるんだろう。まだお仕事中かなぁ?」

えま、壁掛けの時計を見る。時刻は19:30。


○撮影スタジオ・中(夜)

シャッター音が鳴るスタジオ。
陽斗、白い背景の前で次々とポーズを決める。

川上「いいねぇ」

カメラマン・川上(43)、シャッターを切り続ける。

×  ×  ×

陽斗、川上と編集・遠藤(29)とデータを確認。

川上「これとかいい顔してるよ」

陽斗「なんか恥ずいですね」
と、照れ臭そうに笑う。

川上「どう?」

遠藤「これでいきましょう!」

スタッフ「撮影上がりです! お疲れ様でした!」

スタッフ陣、陽斗に向かって拍手する。
陽斗、全方向にお辞儀する。

×  ×  ×

スタッフ、片づけ中。

陽斗「遠藤さん!」

遠藤「?」

陽斗「この間は中村がお世話になりました。撮影すごい楽しかったって言ってました」

遠藤「良かったです! 今度田中さんとペアの企画とかも面白そうだねって編集部で話が出てるんですよ」

陽斗「ほんとですか⁉︎ ぜひお願いします!」

遠藤「ソルトプリンスを徹底解剖って企画も持ち上がってるので」

陽斗「(苦笑)うわ、マジですか」

川上「なーにソルトプリンスって」

遠藤「ファンからの愛称です。田中さんライブとかではクールで塩対応だから、ソルトプリンス」

川上「へぇ~! (からかって)じゃあまたな、ソルトプリンス!」

陽斗「(嬉しそうに)あ~これ絶対次もイジられるやつだぁ! お疲れ様です」

メイク・水野(30)が寄って来て、

水野「田中くんドラマ見てるよ! 毎週リアタイしてる!」

陽斗「ありがとうございます! この前教えてもらった日焼け止めたっぷり塗って撮影してます。日焼けしたら水野さんに怒られそうだし……」

水野「そうだよ~ちゃんとチェックするからね~」

陽斗「ハハッ。気を付けます!」

水野「撮影頑張ってね。お疲れ様」

陽斗「お疲れ様でした!」


○同・駐車場・車内(夜)

陽斗、後部座席にドサッと横になる。

陽斗「あ~~づがれだぁ~~~」

佐藤、運転席でシートベルトを締めながら、

佐藤「はい、シートベルトしてくださいねー」

陽斗「んー」

陽斗、起き上がってシートベルトを締める。

佐藤、ルームミラーで陽斗を確認して車を発進させる。


○道路・車内(夜)

佐藤が運転する車内。
陽斗、窓に頭を預けて外の景色を眺める。

佐藤「最近陽斗さん自分から話しかけに行くこと増えましたよね。人見知り克服したんじゃないですか?」

陽斗、大きく伸びをする。

陽斗「マジ? そう見える?」

佐藤「はい!」

陽斗「俺のせいでユニクラの印象が悪くなるのは絶対嫌だしね……俺、やればできる子だから」

佐藤、誇らしげな顔で頷く。


陽斗「……(照れ隠しするように)ちょっと寝る」

佐藤「はい。もちろんです」

陽斗、胸の前で腕を組み眠りにつく。


○陽斗のマンション・車寄せ(夜)

佐藤、窓を開けて、

佐藤「お疲れ様でした! 明日8時に迎えに来ます!」

陽斗「ありがと。気をつけて」

佐藤、車を発進させる。
陽斗、車が見えなくなるまで見送ってからエントランスに入る。


○同・ロビー(夜)

陽斗、郵便受けを開けて中身を取り出す。


○同・エレベーター内(夜)

順番に階が上がって行く。
チーンという音と共に27階に到着。
陽斗、エレベーターを降りる。

○同・陽斗の部屋・玄関(夜)

陽斗、ドアを開けて中に入る。
玄関には観葉植物と小さな絵が飾られている。
陽斗、鍵を置いてスリッパを履く。


○同・リビング(夜)

ウッド調の暖色系で統一された部屋。
陽斗、一通ずつ郵便物を確認してテーブルに置いていく。
マンションの管理会社からの封筒で手を止める。
白い紙を取り出して内容を読む。

陽斗「は……?」

【ご退去のお願い】というタイトル。
【倒産につき】【ご退去をお願いしたく存じます】【期日は】という文言に目が留まる。
陽斗、佐藤にメッセージを送る。

〈陽斗:ちょっと緊急事態かもしれない〉

すぐに既読がつく。

〈佐藤:まさか、撮られました⁉︎〉

焦っているスタンプが送られてくる。

陽斗「ちげーよ」
と、笑う。

〈陽斗:俺家がなくなるかも〉

〈佐藤:はい?〉

首を傾げる動物のスタンプがくる。

陽斗「そうだよな、ワケ分かんないよな」

陽斗、もう一度紙を見てから二つに折りたたむ。

陽斗「よし! 明日考えよう!」
と、紙を机の上に置く。


○事務所・談話スペース

無人のバーカウンターにはドリンクサーバーとお菓子や軽食が並ぶ。
佐藤とチーフマネージャー・後藤孝弘(35)、カウンターの前で【ご退去のお願い】を読みながら立ち話。
佐藤は頭を抱え、後藤も険しい表情。

陽斗「お疲れ様です」

後藤「おーお疲れさん。なんか大変なことになったな」

佐藤「今チーフにマンションのこと相談してて……」

陽斗「そうなんですよ……どうすればいいですかね……?」

佐藤「とりあえず実家に避難はどうですか?」

陽斗「できれば実家は避けたいかな。マスコミとかのこと考えると、迷惑かけるかもしれないし……」

後藤「……となると、ホテルかなぁ」

カツカツという足音が近づいてくる。
陽斗と後藤、足音の主を察した顔。
佐藤、足音の方向を見ると社長・宮本徹(50)が奥から歩いてくる。

佐藤「社長!」

宮本「なになにどうしたみんな揃って!」

宮本、ハイテンションで寄って来て、後藤と佐藤の肩に手を回す。

後藤「実は田中のマンションの管理会社が破産申請したらしくて……すぐ退去しなきゃいけなくなりました」

佐藤「とりあえず今は長期滞在できるホテルを探す方向で動こうかって……」

宮本「却下! ダメダメ、ホテルは安全のようで安全じゃないから! 人の出入りが激しいし、何かあったらホテルにも迷惑かけるしダメ!」

後藤「もちろんそのあたりはしっかり選びますが……」

宮本、ひらめいた顔をする。

宮本「じゃあしばらくうち来ればいいじゃない! 部屋余ってるし、セキュリティも万全だし、おまけに局も近いから収録も行きやすい。バッチリじゃん!」

後藤と佐藤、口をポカーンとさせて目を合わせる。

後藤「(それはさすがに……)」

佐藤「(陽斗さんが可哀そうすぎる)」

陽斗「……社長って確か娘さんいましたよね……?」

宮本「いるよ~可愛いよ~見る? 写真見る? 見ちゃう?」

宮本、スマホで写真を見せようとして止まる。

宮本「ハァッ!」
と、スマホの画面を隠して陽斗を睨む。

陽斗「?」

宮本「(真剣なトーンで)惚れるなよ? もし万が一手を出すようなことがあれば……事務所クビだぞ。いいな?」

陽斗「出しませんし惚れません! だって高校生でしたよね娘さん! 俺が心配してるのはそういうことじゃなくて……」

陽斗、言いづらそうにする。
後藤、陽斗を察して、

後藤「田中が気にしてるのは、ほら。娘さんに気を遣わせるだろうってことですよ。友達に田中とかユニクラのファンがいるかもしれないし。そしたら色々話したくなったりするじゃないですか」

宮本、ギクリとする。

宮本「……う、うちのえまはそんなことしない!」

後藤「もちろんそんなことはないとは思いますけどね……? 万が一ですよ万が一」

宮本「だぁーいじょぶだいじょぶ! えまは二次元にしか興味ないし、周りもみんなアニメオタクだから陽斗どころかユニクラのことも知らない! 興味ない! そこらへんは全然心配いらないから!」

陽斗、納得していない顔。
後藤、困った顔で陽斗と佐藤を見る。

佐藤「(口パクで)チーフもっと言ってください!」
と、手ぶり。

陽斗「(口パクで) 頼みますよ!」
と、手ぶり。

後藤「(口パクで) ムリムリ! こういう時の社長は頑固だから何言っても聞かないんだよ!」
と、手ぶり。

宮本「なぁ後藤。いい案だろ?」

後藤、陽斗と佐藤をチラッと見る。
陽斗、後藤を促すように頷く。

佐藤「(口パクで)ファイト!」
と、手ぶり。

後藤、頷く。

後藤「(営業スマイルで)……まぁ確かに、色んな意味で社長のご自宅が一番安全かもしれないですよねぇ! 次の家が決まるまでの一時的なものですし……」

陽斗と佐藤、ぎょっとした顔で後藤を見る。
後藤、気付かないフリ。

佐藤「で、でも社長。奥様に相談もなしで決めちゃうのはマズいんじゃ……? それに……」

陽斗、佐藤を制して、

陽斗「……分かりました。社長、しばらくお世話になります!」
と、元気よくお辞儀する。

宮本「よし決まりだな! ひとまずすぐに必要なものだけ家から持ってこい。な?」

宮本、嬉しそうに陽斗と肩を組む。
後藤、宮本の後ろで陽斗と佐藤に「ごめん」と手を合わせる。
陽斗と佐藤、苦笑する。


○宮本家・玄関(夜)

えま、薄い段ボールを抱えて帰って来る。

えま「ただいまー!」

カーリー、嬉しそうに走って来る。
えま、しゃがんでカーリーを撫でる。

えま「カーリーただいまぁ!」


○同・リビング(夜)

えま、制服のままソファに座る。
テレビで陽斗のドラマをつけがら薄い段ボールを開ける。
中には陽斗が表紙の同じ雑誌が3冊。
えま、大事そうに抱きしめてドラマを見る。
美香、リビングに入って来てえまを見る。

えま「ママお帰り~」

美香「ただいま~! ってちょっと~制服シワになっちゃうから脱いでから見なさい」

えま「はーい」

えま、ドラマを止めて立ち上がる。


○同・えまの部屋(夜)

白を基調とした部屋。
ベッド、ローテーブル、机、椅子、棚、クローゼットがある。
ローテーブルの上には作りかけのファンサービス用うちわがある。
棚の中にはユニクラウンのCDやDVD、陽斗のアクリルスタンドやブロマイド、雑誌、ユニクラウンの日めくりカレンダーが綺麗に陳列。
えま、脱いだ制服をハンガーにかけ、モコモコの部屋着に着替える。
鏡の前で髪の毛をハーフアップのお団子にする。


○同・廊下(夜)

えまが廊下に出ると、カーリーが玄関の前でドアを見つめて座っている。

えま「どうしたのそんな所で。外に誰かいる?」

えま、しゃがんでカーリーを撫でながら不思議そうにドアを見る。


○同・玄関外(夜)

宮本と陽斗、ドアの前に立つ。
宮本、鍵を開けようとして陽斗の方を振り向く。

宮本「(真面目に)1つ約束してほしいことがある」

陽斗「(真面目に)はい……」

宮本「娘の前では絶対に社長って呼ぶな。娘には仕事のことは話してないんだ」

陽斗「分かりました」

宮本、ドアに鍵を差し込む。
回す前に再び勢いよく振り返って、

宮本「(脅すように)絶対に手ェ出すなよ?」

陽斗「(間髪入れずに)出すわけないでしょ!」

宮本、再び前を向いて鍵に触れる。
回そうとして、差し込んでいた鍵を抜く。

宮本「(振り返って)美香にも惚れるなよ⁉︎」

陽斗、面倒そうに目を細めて、

陽斗「惚れるわけないでしょ」

宮本「惚れるわけないとはなんだ! 美香に魅力がないってか⁉︎」
と、陽斗に詰め寄る。

陽斗「(イライラして)いいから早く中に入れてくださいよ!」

陽斗、宮本から鍵を奪ってドアを開けようとする。
宮本、陽斗を止めようとして取っ組み合いになる。


○同・玄関(夜)

宮本「ただいま~」
と、ハイテンションで入る。

陽斗、宮本の後に続く。

陽斗「……お邪魔します」

えま、玄関の前でカーリーを撫でている。
カーリー、宮本の後ろめがけて走って行く。

えま「あ! ちょっとカーリー!」
と、手を伸ばす。

陽斗「可愛いなぁ。カーリーっていうのか? ん?」

陽斗、しゃがんでカーリーを撫でる。

えま「(ん?)」

えま、宮本の後ろを覗き込もうとするが、宮本が前に出てくる。

宮本「(手を広げて)えま~! パパのこと出迎えてくれるなんて……一体何年ぶりだろう……」

えま「(嫌そうな顔で)あーはいはい」

宮本「そうだ紹介するよ。今日からしばらくうちに住むことになった田中陽斗だ!」

陽斗、宮本の後ろから顔を出す。

陽斗「……こんばんは」
と、会釈する。

えま、勢いよく立ち上がりフリーズ。

えま「(なっ……なんで陽斗くんがうちにいるのぉぉ⁉︎)」