言葉とは裏腹に、ゆっくりと永遠くんの瞼が落ちてくる。
それだけでこんなに甘く熱を孕むのなら、つられて私の瞼も重くなるのは、どうしようもない――……。
(……いや、子どもいるし……!! )
「……ひどい……」
直前でパッと下を向くと、衝突は免れたのの不満だったらしくそう拗ねられてしまった。
「……だ、だって……! 」
「ん。後で、だよね。了解。というか、それなら受け付ける。だーめ。そこは譲歩しない。それより、その猫、そんなに遠くにいないんだよ」
「え? 」
どう見ても、離れたところから桜を見上げてるみたいなのに。
「ここ、桜の木のところ。色味似てるから分かりにくいけど」
(本当だ。幹に、これは……)
「肉球スタンプ」
――って、なんで……。
(……!! )
「な、どういう……」
「さあ、何の印だろね」
意味を深読みして真っ赤になる私にいたずらっぽく笑って、なぜか突然立ち上がった。
「絵も見せられたことだし。日向ぼっこもいいけど、もっとデートっぽいことしよ」
――おいでよ。
そう言って差し出された掌は、すごく頼もしい。
無意識にふらふらと側に寄って、無条件に掴まってしまうくらい。
「ん……」
「ん……? 」
空、木々、公園の砂。
何てないものに順に目を走らせて、最後に私に戻ってきた。
「やっぱり、綺麗。……ありがとう、さくら」
この世界に、同じ時代に。
君がいてくれて、本当に幸せ。
「永遠くんも、だよ」
出逢えたのは幸運。
でも、側にいてくれるのは永遠くんだから。
「ありがと……! 」
――だから、私は幸せなんだよ。
この世界は、きっと最初から美しかった。
でも、永遠くんがいなかったら、私がそれをこんなにも実感することはなかった。
神様にも感謝するけど、永遠くんには到底及ばない。
「……え、あ……うん……」
自分の方が公共の場でもっとすごいことしたくせに、なぜかそんなところで真っ赤になって、しどろもどろで。
チラチラ見下ろしたりするのは、一体何なのだろう。
「可愛い」
「……自分こそのくせに、またそんなこと言う」
そんな謎のことで不貞腐れるのも。
(おいで、大きな仔猫)
言ったら更に拗ねるから、仕返しは胸に留めて。
どこに行くのか決まってもないのに、永遠くんの手を引っ張る。
この先のことを、まだはっきり何かの枠に収めたわけじゃないけれど。
間違いないのは、どこに行こうと私は永遠くんと一緒だ。
(……そうかも。きっと、確かに……)
私の世界に咲く今年の桜は、今までで一番綺麗だ。
【おいで、Kitty cat・おわり】



