「……って。しかも、ちょっとイラッとしちゃって、さっきみたいな感じ悪い声になっちゃった……と思う。ごめん……」
『印象悪かったって怒ってた? というか、さくらが怒る? 』
そこでしゅんとして筆談復活させるの、狡いくらい可愛い。ううん、もっと狡いのは。
「……だから、あんなに真っ赤だったんだ」
私が知らなかった永遠くんの一面を、先に見て。
その結果、あんなに照れてた。
「……なんか違うことで怒ってる? 」
「…………怒ってない」
(私ですら、さっき初めて聞いたのに……)
「私用」って特別にしてくれるのは嬉しいけど、素の永遠くんも知っていたい。
このムクムクと膨らんでいくモヤモヤした感情は、一体何だろう。
人間の感情に疎いロボットが、そう必死に答えを探して出てきた結論は。
「変なヤキモチ、可愛い」
――独占欲、だ。
「……ふ、普通の、ごくありふれた嫉妬だと思う」
「え、嫉妬なのは認めるの? 」
(……う)
だって、仕方ないと思う。
いつも可愛い雰囲気の年下の――ここは、敢えてそう付け加えさせてもらおう――男の子が、いきなりそんな台詞をそんな声で吐いたら。
好意がなくたって、キュンとしても無理はない。
無理はないと分かってるから誰も責められないし、よって何だかモヤッとするのも致し方ない――……。
「どう考えても、さくらしか知らないことの方が多いのに。……でも、嬉しい」
「……嬉しいかな……」
「嬉しいよ。可愛いし」
――俺は必要だって、言われた気がする。
「必要に決まってるよ。そんなこと言うの、永遠くんの方が変」
そんなことで爽やかに笑うのが切なくて、詰まりそうになったのを誤魔化す為に、文句を言ってみたけど。
「そっか。……ありがと」
お礼を言われてしまって、私こそ拙い感情表現ではもう何も言えなくなった。
「……あ、そうだ」
きっとそれすらもバレバレで、コツンと永遠くんの側頭部が私の肩に当たる。
優しい苦笑いすら胸が熱くなって、キュッと音を立てていそうなくらい。
私が混乱してるのを気遣って、まるで今思いついたみたいに言ってくれた。
「……見てほしいのある。本当は、こっちのことかなと思ってたんだけど」
永遠くんのリュックの膨らみには気がついていた。
もちろんそれも気になったけど、それは待ちたいと思ってた。
もし自惚れじゃなければ、永遠くんの想いが詰まってるから。
「正直言うとね。まだ、全然納得いってない。でもね、気づいたんだ。きっと、完璧に納得いくものは俺には描けない」
――私の絵。
「だって、俺の目に見えてる以上に綺麗に描くなんて、絶対に無理だから」
桜色と呼ぶには、ほんの少し赤みが強い箇所もあったり。陽の光を浴びて、白に近く見えるところもあったり。
そして、けして一色では言い表せない花を見上げている白猫もいた。
「これ以上に綺麗なさくら、存在しないよ」
嬉しくて、涙を溢したくなくて空を見上げたのに、空の複雑な色味がまた、新たな涙を誘う。
「そんなことないよ。でも、喜んでくれたならよかった」
「嬉しいに決まってるよ。でも……」
そっと頬を引き寄せた拍子に滑り落ちてきた涙を拭う指が、不安そうに動きを止めた。
「今度は、猫ももっと側に描いて」
「……また描くの? 」
「……うん」
それだけ、何だか寂しい。
この大きな仔猫に、もっと側にいてほしいの。
「いいけど。でも、それなら……」
――もっと近くで、いろんなさくらを見なくちゃ。



