おいで、Kitty cat








頬が熱いほど、落ちてくる涙は冷たく感じる。
それもまた、永遠くんに出逢って知ったから。
たとえどんなに辛くなっても、「好きにならなければよかった」なんて後悔は絶対にしない。
決意するまでもなく他にどうしようもないと気づいた私は、アンドロイドの時よりも随分強くなった気がする。

ああ、そっか。
私、弱い自分が嫌で、そんな自分を見て見ぬふりしたくて。
傷つきたくないから、心も体温も自分から取り上げていたんだな。
過去を責めようとは思わない。
きっと、それだけのことがあったんだろう。
そう認めるのは、逃げかもしれないけど。
逃げてでも、この世界に留まれてよかった。
この気持ちを知れて、やっぱりそう思うよ。





・・・




「あのー、……さ。お姉ちゃんは、結婚とかしたくないの? 」


から笑いが漏れたのは、妹に「たまには姉妹水入らずで」と、よく分からない呼び出しをされたからじゃない。
気まずいとばかりにカフェでマグカップ越しに言われたからでも、「じゃあ、なんでそんなこと聞くの」と思ったからでもなかった。
呼び出された時点で想像がついて、覚悟もしてきたはずなのに胸がチクリと痛んだからだ。


「憧れがないとは言わないけど。好きな人がいるのに、他を探そうなんて思わない。……笑ってもいいよ」


ガヤガヤした店内でも、何となくいい大人が口にするには恥ずかしい台詞。
それでも、誰に笑われても意見を変えるつもりはない。


「笑えないよ。つまり、彼を待つの? そもそも、むこうにそんな気あるの? 」

「待つって……。あのね、付き合ったばかりで、結婚する気ある? なんて聞かないでしょ。紹介所で知り合ったわけでもないのに」


笑えないと言われるのは、笑われるより失礼だなとしみじみ思いながら、私もカップに唇をつけながら返した。


「それはそうだけど。でもさ、“こんなこと言って重いかも”みたいに悩む時間は、もうないんじゃないかな。お姉ちゃんがっていうか、私たちの世代は」


気遣いのつもりか、「耳が痛いよね」って笑って何かに同意してくれたけど、私は何も言えなかった。

「もう」遅いって、一体いつなら遅くなかったのかな。
いつまでだったら、間に合っていたんだろう。
そこまで考えて、答えが出ることはないことに気づき、カップをソーサーに置く。


「もう既に遅いなら、尚更焦らなくていいんじゃない? 私が彼に会えたのが、今だっただけなんだし」


『ね。それなら俺は何度だって、さくらと……』


「私は、永遠くんといられる世界を選ぶよ」


永遠くんに逢えて、話せて、好きになって。
好きになってもらえる世界にいられて、幸運。
この気持ちが変わりようがないのなら、そう思うしかないんだ。
あの時永遠くんが言ってくれたことが、今ならすごく分かる。


「は? 世界? 」


(だって、同じ気持ちだ)


永遠くんよりもかなり歳上で、こんなふうに誰かに何かを言われて傷つくことが、きっとまだまだあって。
慣れることすらできないのは、苦しいのだとしても。

こんな奇跡が起きた世界を、私は手放したくない。
ただ、それだけのことなんだ。