おいで、Kitty cat









(からの、すやぁ……はすごいなぁ……)


ううん、疲れてたのかも。
永遠くん、一人で抱え込んじゃいそうだし。


『頑張るって決めた』


永遠くんが頑張らないと手に入れられないような、そんなすごい存在じゃないのにな。
もっと、力抜いてもいいと思う。
それは本心だけど、私の方こそ、これ以上永遠くんに手の届かない人になってほしくないと思ってるのかも。
彼に比べたらものすごく我儘で、真っ黒すぎて。
ピュアホワイトの永遠くんに触れるのを、戸惑ってしまうくらい。


(……とか言って、誘惑に負けちゃうし)


細くてサラサラの髪を撫でるのに、いつからやましさを感じてただろう。
きっと、そんなの最初から。
やましさの理由や成分が、私のなかで変化しただけ。


(睫毛も長いし、永遠くんが気にするほど……)


――気にするほど、筋肉ないこともない。


(やましいこと考えすぎ……! )


髪とか睫毛とか、羨ましいを通り越して一体どこまで思考を飛ばしてるの。
すやすやと眠ってるところの暴挙。
いや、実行はしてないけど。
とにかく、寝込みを襲おうとしてるのだけは確かだ。
とにかくとにかく、よろしくない。
彼を見るのやめよう。それしかない。


(……あ……)


タブレットが、また置きっぱなしになっている。
絵を書いてたのかな。
この前見せてくれた絵も、すごく綺麗で可愛かったけど。
今描いてる絵って、どんなのなんだろう。
そういえば、仕事終わったばかりだからか、ちょっとだけ散らかってるような。


(……ん? )


タブレットの近くに積まれていた本を見ただけで、かあっと赤くなるなんて、自惚れも甚だしい。
色の図鑑って言うんだろうか、タイトルからするとそんな感じ。
この前言ってたのとは、別の絵の為に読んでたのかもしれない。
仮にその絵の為だったとしても、他に使う色か、もっと全体的に調べてたかもしれないのに。

もしかして、桜色を調べてたのかな――そんな期待とナルシズムが体温をどんどん上げていく。


「……さくらのえっち」

「うわぁぁっ……!? 」


後ろから耳元で囁かれたのと、背中にぴとーっとくっつかれたのとどちらが早かったのか。
声が聞こえたと思ったら、もう身動き取れなくなっていた。


「え、えっ……! ……な、何もしてないんですけど……!! 」

「え、そうなの。してくれてもよかったのに。残念」


(そっちはいいのか……いや、勇気ないから未遂に終わったんだけど)


咎められたのは、やっぱり絵の方だ。
それも未遂だったけど、同じく誘惑に負けそうな瞬間はあった。
第一、何の絵を描いてるのかは聞かされてない。
さっきの会話から連想した、めちゃくちゃ恥ずかしい妄想だ。


「やっぱ、気になるよね。というか、バレバレ。……そうだよ。桜を綺麗に描きたくて……どんな色にしようかなって、悩んでたところ。……あ」


真っ赤な顔を見られたくないのに、そう言ってくれた永遠くんを見逃したくない。
黒目だけで見上げたつもりだったのに、呆気なく頬が捕まってしまった。


「……そんな色に塗れたらいいのにな。かわ……」


(無理……!! )


見たがって、聞きたがったのは私なのに。
甘すぎる永遠くんに降参――……。


「本当なのに。俺ね、少なくとも前よりはずっと、この色に近づける気がする。だから、もう少し待ってて」


――して、俯いた顔が我慢できずに永遠くんを見上げる。


「……さくらは、俺をその気にさせるの上手いね。そんなの見たら、さっさと頑張らないと俺がもたない……」

「ご、ごめん……? 」


だから、頑張らなくていいのに。
混乱しきって、ひとまず謝ってしまった私に吹き出すと、気のせいか少し悪意を感じるキス。


「ううん。おかげで、やる気になるし。ありがとう、だよ。後、別の意味でも」


――もう少し、待ってね。


「ど、どん、どんな意味……」


(どどど、どん……)


……もう喋るのやめよう。
放棄した私に永遠くんはもう一度「可愛い」と意地悪に笑うと、今度は甘さの純度100%みたいに、そっと口づけた。