(もしかして、避けられてる……? )


あれから、何度そう思ったか。
その都度、自分で否定するのだから、またすぐに同じ疑問が湧くのは当たり前だった。
それを確信にしたくなくて、永遠くんに聞くことができないのだから。

今度は、前みたいに関係を隠したりごまかしたり、否定はしなかった。
でも、永遠くんにはそう見えたのかもしれない。
それとも逆に、よりにもよって家族の前で勝手に彼氏だと紹介されて、引いちゃったんだろうか。


(迷惑だったかな……)


突然すぎて避けられなかった事態とはいえ、もっとふんわり紹介すればよかったかな。
でも、とてもこの関係を隣人はおろか友達とも表現できるわけがなかった。


(……違うや)


――私が、とてもそう呼べなかったんだ。

自分勝手だった。
自分から手を離したばかりなのに、今度はぎゅっと握って永遠くんを締め付けた。
それどころか、「帰らないで」なんて懇願したりして。


「重……」


どうしよう。
謝りたいけど、それも勝手すぎる気がする。
そもそも、謝りたいなんて傷つけた方のエゴだ。
してしまった事にもよるけど、傷つけられた方の気持ちは謝られたからって晴れるわけじゃない。
寧ろ、余計に落ち込むことだってある。
謝ってスッキリしたいのは、やっぱり勝手だ。

「そんなことないよ」「そんなつもりじゃ……」


――そんな嘘、吐けない。

大体、そんなってなに。
一言で言えないのなら、それらすべて「そんなつもり」でしかなかった。


(あー!! もうっ……!! )


ウダウダ考えても仕方ない。
家族に会ってもらってごめん、じゃない。
嫌な思いさせてごめん、だ。
何か悩ませてるなら、まずはそれを知らないと。
一つだけ確かなことは、それは永遠くん一人で悩むことじゃない。
たとえ、答えを出すのは永遠くん一人だったとしても。




・・・



「……あ」


早く帰宅したその日、正確に言うとそわそわして仕事にならず、わりと無理やり切り上げて帰り、永遠くんの部屋のチャイムを押した。


「ご、ごめん。いきなり」


連絡してからにすればよかった。
ドアを開けた永遠くんを見て、すぐに後悔した。
こんなの、妹のことは言えない。
気持ちばかり前のめりで、相手の都合なんて考えてなかった。


「ううん。大丈夫。……ごめん、中で待ってて」

「う、うん」


(……待つ……? )


中に入れてくれたのと、嫌な顔されなかったことにほっとして、言葉どおりにお邪魔してしまったけど。
つまりそれって、今都合悪かったってことでは……。


『大丈夫? そういえばもう定時過ぎてるし、そろそろ終わりにしようか』


(……あ! )


永遠くんの気配しかないのに、知らない男性の声が聞こえてハッとする。

仕事中、それもリモート会議中。


「すみません。助かりま……」


開けたままでいてくれていた部屋へと続くドアを、咄嗟にバタンと閉めてしまった。


『……あ、見えてないから。何も。大丈夫』

「……あ、いや……その。見えたまんま……です。彼女来た……終わっていいですか」


(……いや、ダメだよ……!? っていうか、ごめんなさい……)


でも、永遠くんの正直さは、相手に好感しか生まなかったようで。
笑って「お疲れさま」という声がドア越しに聞こえてきた。