「おはよう」
「おはよー!」
高い声や、柔らかい声。
色々な声の「おはよう」が、イヤホン越しに聞こえる。
挨拶するような友達はいるけど、教室に着くまで会えない。
止まることなく流れる歌に身体を揺らしながら、私は高校の門をくぐった。







「せーつーな!おはよっ」
「おはよう、明日香」
左側でハーフツインにしたショートカットの茶髪。
私の友達である本宮(もとみや)明日香(あすか)が、いつも通りの元気な声でやって来た。
『せつな』というのは、私・上坂せつ菜の名前だ。
「大丈夫?今日も寝不足?」
「今日は2時に寝たんだけど…………クマ取れてない?」
「全然取れてないよ〜!可愛い顔が台無し!」
「今日はちゃんと11時に寝なよ!」と、まるでお母さんのように私を叱る明日香。
(寝ないのには、ちゃんと理由があるんだけどな)
だけど、その理由を話しても、きっと信じてくれない。
どうせ明日香も同じ。他の時と同じように、離れていくのだろう。
朝のホームルームが始まり、健康観察で返事をすると眠気が襲う。
1番後ろの席だから、寝てもバレることはない。
ふわぁ……とあくびをして、私はそっと机に伏せた。








目を開けると、そこはもう教室ではない。

辺り一面、雪国のように真っ白な世界で、特に何もない。

特に起き上がったりするわけではない。

こうして床に寝そべって、ただぼーっとしているだけでいい。

何も考えなくていいし、そのことがすごく楽だから。

身体から力を抜いて、脳みその活動を止めて、白銀(はくぎん)の世界をぼんやりと眺める。

目を閉じたら戻されてしまうから、頑張って目を開く。

このままずっと、ここにいられたらいいのに……………

何も考えずに済んで、何にも誰にも囚われずに済むから。

そう思いながら、明日香に起こされるまでひたすら動かずに過ごした。