朝日が未だ昇りきらない頃、天蓋付寝台の中で1人の少女は目を醒ました。争いや独裁政治等様々な問題に触れずに生きる、貴族の少女。歳は十六か十七と云う辺りで、腰迄伸びた濡れ羽色の髪が印象的である。少女は、名をメアリー・グロッカルトという。グロッカルト家の一人娘。正に才色兼備という言葉の似合う、素晴らしい才を持つ少女であった。勉強も出来、バレエの才も凄まじく、おまけにその美貌。白雪色の陶器肌、前述した濡れ羽色の髪に、つやりとした唇は、兎の舌の如き色をしている。そして、その少女の躰の中で一等珍しく美しいのは、其の瞳であった。形容するならばマジックアワーの空をその瞳に閉じ込めた様であった。その瞳の美しさに何百という人が男女問わず魅了され、彼女に婚約を申し込む者は後を絶たなかった。それどころか、使用人になりたいという者も後を絶たなかった。それ程までに、少女は素晴らしかった。神に愛された子、少女がよく言われた代名詞である。