「…………」


 机の脇に置いてある鏡に顔を写し、両手の人差し指で頬を釣り上げる。
 笑うって、どうしたらできるの?
 作られた偽りの笑顔が反射銀に映ると、総一朗が書斎へと入ってきた。


「お嬢様、コーヒーをお持ちしました。……? そのお顔は?」


 指で釣り上げた頬のまま、私は彼の顔を見る。


「もし出会えるとするならば、笑顔というものがいいと思って。でも、無理そうね」


 手を下ろすと感謝を述べ、カップを受け取る。私からの返答に迷っているのだろう、総一朗は口で表すには難しい顔をしていた。