君のブレスが切れるまで外伝―on a rainyday remember love―

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 都会から離れた辺境の土地、宮之城の屋敷。
 主人の帰らないこの場所は、もはや屋敷としての機能を果たせてはいないのだろう。
 私が生まれる前からある屋敷。今、この目に映るのは幼かったときよりも老朽化が進んだ、寂れてた館だ。いくら総一朗が管理を任され、整えられているとはいえ年月は無情。劣化してしまうのは至極当然である。とはいえ同時期に作られた一軒家と比べれば遥かに強固。未だ潰れる気配はない。


 手入れの行き届いた雨下の庭へ足を進めると、左右によく見知った花壇を見つける。
 左には色めく青い花、右にはまだ咲いていない、しかし咲けば私の眼と同じ、真っ赤に彩る花となる。
 どちらも私が幼い頃に植えた花、勿忘草と彼岸花。


「花の手入れもしてくれていたのね」
「はい。お嬢様がとても大事に育てられていたお花ですので」
「大切? 私はただ自分のエゴを押し付けているだけよ」


 そう言って、私は屋敷に入るべく歩みを進める。
 勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』。それは私のわがまま。
 想像に容易い。私が言うのもおかしいかもしれないが、あの子は大切にされていて本当に幸せそうだった。きっと、彼女の周りには大多数の友人がいるだろう。私は彼女の数ある出会いの一つにすぎない。