「ま、待っ――」
「さよなら」


 目に映る赤い火花、声をかき消すほどの轟音。銃声は何度も何度も鳴り響き、その度にフラッシュが炊かれる。
 数回に渡り、耳を劈いた音はやがてカチ、カチと虚しい音へ変わっていた。


「お嬢様っ!」


 けたたましい音を聞いて、先程のメイドがこの場へとやってきたようだ。私の下、動かない女から足を退けるとメイドへ凶器を渡す。


「……お父様に連絡して、武道稽古の先生はもう必要ないと。そして雇う人間は私が決めると」
「は、はい……わかりました……」


 先生だったはずの人に目もくれず、ネームプレートがなくなってしまった黄色傘をギュッと抱き締める。
 燃えてしまったあの子の名札の代わりに、私の名が燃えてしまえば良かったのに。
 名前が嫌い。嫌いと認識していれば、私はあの子と同じ人間でいられる? でも、嫌いな名を忘れさせないように、また今日の空も雨模様。
 慣れないことをして疲れるとはこういうことなのか。私は自室へ戻ると、眠りについていた。


 その後、泡を吹いてピクリとも動けなくなっていた女は、二度と私の前に現れることはなかった。風のうわさでは性格がマシになり、どこかで真面目に働いているということ。
 私はあの道具を……殺すためではなく、脅しとして使ってしまったのだった。