更に半年が経過し、人事部から異動の打診をされていた。やはり開発チームへの配属は難しく、製造技術なら今よりやりがいのある仕事も任せてもらえるらしい。

 確か製造技術本部は東京じゃなくて工場に拠点があったはず‥‥長野の次は群馬か。

「異動したらもう開発には戻れませんよね?」

「そうだね。でも君がこのまま開発にいても本当にやりたい仕事はできないと思うんだ」

「藤原さんがいるから‥‥ですよね?拒否される理由がどうしても思い当たらないんです。改善できる点があるなら今後のためにも知っておきたいのですが‥‥」

「残念だけど僕もわからない。研究職は人材が限られてるから説得は続けてたんだけど、とにかく無理の一点張りでね。でも他と比べて君に何か問題があるとは僕には思えない。このまま開発で飼い殺すには惜しい人材だ。製造技術なら君の能力を活かせる仕事ができるはずだよ」

 週末、龍二に異動の話をすることにした。仕事の話はあまりしたことがなかったけど、さすがにこれは報告が必要だろう。

「私‥‥異動で群馬に行くかもしれない」

「え?異動?群馬?本社じゃなくて?」

「うん。群馬に工場があるんだけど、そこに拠点がある製造技術への異動を打診されてるの」

「愛海は研究職でしょ?なんで工場?」

「うーん‥‥私、開発グループの偉い人に嫌われてるらしくて、実は研究の仕事をさせてもらえてないんだよね」

「え?何それ?どういうこと?」

「理由がわからないから改善のしようもなくてね。人事の人がずっと説得してくれてたみたいなんだけどどうしても無理で、私が開発に携われる可能性はほぼないらしい」

「愛海はそれで納得できるの?」

「納得はできないけどどうしようもないよ。テストのみで2年足らずの職歴じゃ、研究職で転職するのは厳しいでしょ?だったら今の会社で異動しても同じかなって‥‥」

 龍二が厳しい顔のまま黙りこんでしまった。

「もし‥‥研究職で採用してくれる会社があったら転職したいってことだよね?」

「うん、まあね。でも新卒ならまだしも、中途採用だとスキルがなさ過ぎて無理じゃない?」

「経験を問われなかったら、中小企業で研究だけに没頭できる環境じゃなくても平気?」

「研究開発をさせてもらえるなら今より厚待遇だと感じるけど‥‥何?私でも雇ってくれそうな会社に心当たりがあるの?」

「うん‥‥聞いてみないと雇ってくれるかわかんないけど、俺の親の会社。繊維系の製造販売をしてて、小規模だけど商品開発専門の部署もあるし、そこで新しい繊維の開発もしてるんだ」

 龍二の親の会社‥‥うーん‥‥どうだろう?