研修が終わって通常の業務が始まると、新人の私はただひたすら製品テストを繰り返すだけのロボットのような存在になっていた。

 新人が最初から好きな仕事ができるとは思ってなかったが、ここまで単調な仕事しかさせてもらえないというのは想定外だった。

 今が単に下積みというだけで、頑張ればいずれ開発チームに加われるというなら我慢もできる。でもそうじゃなかったら‥‥?

 本来製品テストは大卒で研究職採用された私が専属で行うものではなく、それは誰からみても違和感のある状態だったようで、疑問視する人も少なくなかった。

「東海林さんて早慶上理出身のエリートじゃなかった?なんでテスト専属なの?」

「俺もよく知らないけど、藤原さんが彼女を拒否してるって聞いた。研究職採用のエリートだから適当な配属もできなくて人事も困ってるらしいよ」

「うわー藤原さんに嫌われちゃったのかー。そりゃ絶望的だね?でも新人でそう接点もないだろうに、彼女何したんだろうね?」

 え‥‥?何もしてないと思うけど?藤原さんて開発のグループ長だよね?研修中に何度か見かけたくらいで、直接話したのは採用面接の時だけじゃない?

 男性の多い開発グループで出世を果たした唯一の女性として知られる藤原さんは、私が密かに目標としていた人物だ。

 そんな憧れの存在から知らぬ間に嫌われていたなんて‥‥休憩室でたまたま耳にしてしまったこの事実に、私は動揺を隠せなかった。

 藤原さんに嫌われるようなことを直接した記憶もないし、仕事でも思い当たるような失敗はしていない。違う‥‥配属の時点で嫌われていたとしたら、研修中に何かしたのか?

 どんなに考えても原因はわからないし、新人の私にはそれを探るすべもない。今の私にできることは、与えられた仕事を真面目にこなすことくらいだろう。

 2年目に入って新人が開発チームに配属されたが、私は相変わらず製品テストを繰り返していた。私が藤原さんに嫌われているという噂はすぐに広まり、職場で腫れ物扱いされるようになって久しい。

 開発グループにいる限り、私に未来はないだろう。異動願いを出すか?その場合、研究職は諦めざるをえない。

 私の希望は研究職だった。この会社に入社したのは、馴染みのある化粧品を扱う会社からエントリーしたら運良く内定をもらえたからに過ぎず、元々化粧品に強い思い入れがあったわけではない。

 これでは本末転倒もいいところじゃないか。

 私の中で『転職』の二文字がちらついた。