これまでの龍二は龍二だったけど龍二じゃなかったのかもしれない。友達じゃなくなった龍二は、文字通り遠慮がなくなった。

 卒業式の翌日、龍二はしれっと私の家にやってきた。なんで家の場所を知ってるんだ?と私が考えている間に、龍二は母への挨拶を済ませていた。

「やだ!龍二君て随分イケメンだったのね!」

 勉強面でもの凄くお世話になっていたことは家でもよく話題に上がっていたので元々龍二の印象は良かったはずだ。そこに上乗せして爽やかに挨拶する見目の良い龍二に、母は一瞬で掌握されてしまったらしい。

 引っ越しまでの間、龍二は手伝いをするという名目で毎日家にやってきては夕飯まで済ませて帰る程我が家に馴染み、予定では母が長野まできて引っ越しを手伝うはずだったのが、いつの間にかその役は龍二へと託されていた。

「私、外車って初めて乗ったかも‥‥」

 荷物を出し終わり、現地へは新幹線を使うはずが、これも龍二の車で行くことになった。

「外車っていっても右ハンドルだし、国産車とたいして変わんないよ。親の車だから維持費とかはわかんないけど」

 初めての引っ越しで私はヘロヘロなのに、私以上に荷造りを頑張ってくれていた龍二は何故か元気そうで羨ましい。

「愛海?起きて?」

 長野まで3時間ちょっと、寝ている間に到着していた。

「寝ちゃってたんだね?なんかごめん」

「出発が早かったから疲れてるんだろ?午後から荷解きだし少しでも回復した方がいい。長野といえばやっぱ信州蕎麦だと思って店を探したんだ。少し早いけどお昼にしよう」

 お蕎麦は美味しかったけど、こうして龍二とずっと一緒にいると、長野に引っ越してきた感じが全くしない。

「色々手伝ってくれて本当助かるけど、龍二も入社前に準備とかあるんじゃないの?」

「ん?全然大丈夫。入社式の前日に戻ればいいように、必要なことは全部終わらせてきたし」

 ん?入社式の前日に戻る?

「愛海も入社式は東京だよね?それまでこっちにいるから、また一緒に戻ればいいじゃん?」

 え?こっちにいるって‥‥?

「え?まさか俺のこと追い返そうとしてた?」

 言われてみたら、引っ越しが終わった後龍二がどうするのか全然考えてなかった。確かにこれだけ手伝ってもらってそのまま追い返すのはあまりにも酷い。でも入社式までまだ日にちがあるのに、龍二はどこで寝泊まりするんだ‥‥?

「俺は愛海の彼氏でしょ?当然、愛海の家に泊まるつもりで来てるからね?」

 そうだ‥‥私、龍二と付き合ってたわ。