「龍二‥‥」

「ごめん!俺、熱くなっちゃって‥‥痛かったよね?」

 慌てて私から離れようとする龍二の腕をつかんで引き止める。

「違う!違うの!あの‥‥確かめたいの。‥‥龍二から‥‥その‥‥キス‥‥してみて欲しいんだけど」

「え?俺から?‥‥いいの?」

 龍二を見上げると、戸惑いながらも喜悦の表情を浮かべているのが見てとれた。

 私は慎重に頷いた。

「うん。もう一度、ちゃんと確かめたい」

 龍二が私につかまれていた腕をそっとつかみ返し、顔を近づけてくる。鼻の先が微かに触れた。

「愛海は俺の全てだ。絶対に大切にする。どうか信じて‥‥俺は愛海を愛してる」

 龍二の唇が、丁寧に優しく重なった。

 心臓は変わらずドキドキしている。それがキスのせいなのか、龍二の囁きのせいなのかはわからない。どちらも甘くて脳が溶けそうだ。たださっきとは明らかな違いを感じた。

 ‥‥‥‥すごく、きもちがいい。

「愛海?」

 さっきのキスと何が違うのかわからない。友達だった龍二となんでこんなことになってるのかとか、龍二が私のデート相手について知ってたこととかもそうだ。わからないことが多過ぎる。でもひとつだけわかった気がした。

「私‥‥龍二のこと‥‥好きなのかも」

「‥‥‥‥え?本当?」

 戸惑う気持ちはまだある。でもこの胸のドキドキや恍惚感に、別の理由を求めるのは無理があると思う。

 龍二程の重みはないだろう。だけど私は確かに龍二のことが好きなのだ。友達の好きじゃない。それに気づいてしまったら、多分元には戻れない。

 龍二が不安げな表情を浮かべて私が答えるのを待っていた。いや、違う。龍二はもう、7年も待っているのだ。

「龍二‥‥私を、龍二の彼女にしてくれる?」

 私の言葉に龍二は一瞬目を見張り、眉間にしわがよったと思った時には目から涙が溢れ出した。泣き顔を見られたくなかったのかすぐ胸に抱きすくめられる。

「やっと‥‥やっとだ。嬉し過ぎて死にそう‥‥」

「いっぱい待たせちゃったよね。なのにまた遠距離‥‥なんか本当ごめん。死なないでね?」

 そう。私は来週から長野なのだ。引越しの準備もある。恋人としての時間はないに等しいだろう。

「うん、まだ死ねない。毎日電話するし会いにも行く。もう遠慮はなしだ」

 龍二の腕の中でぼんやりと聞いたこの言葉の意味を私が理解したのはそれから少し経ってからになる。