私は、晴人くんの言葉の意味が理解できなくて呆然としていた。

 しばらくして思い出したのは、少女マンガで読んだシチュエーション。
 実は吸血鬼(ヴァンパイア)だった男の子が、ヒロインに血を欲求して……

 ……待って待って、それはマンガの世界の話で……
 現実にはありえない……はず、だよね?

「晴人くん、それは……どういう……」
「ごめん……彩花ちゃんの血、飲みたい……」

 ……ど、どういうこと……⁈
 それってつまり……

 ……晴人くんは、吸血鬼(ヴァンパイア)ってことーーーー⁈

「は、晴人くん、落ち着いて……」
「はぁっ…はあっ…」

 晴人くんは、苦しそうに息を吐く。

 私はそこでようやく、晴人くんが本当にヴァンパイアだということを理解した。
 でもヴァンパイアって……血を飲まなきゃ、死んじゃうんだよね⁈
 どうしよう……このままじゃ晴人くんが……

 ……晴人くんを助けるには、これしかない……っ

 私は意を決して言った。

「……いいよ」
「え……」

 晴人くんの口から、驚いたような声が漏れた。

「私の血っ…お、美味しいかどうかわからない、けど…飲んで、いいよ!」

 私は震える声で言った。
 私だって……怖い。
 でも……

 私の、生まれて初めての好きな人だもん。

 晴人くんを……助けたい!

「晴人くん……飲んで!」

 私を抱きしめたままの晴人くんが、もそりと動いた。
 幸い、今日保健室の先生はいない。
 だからきっと、大丈夫!

「わっ……」

 晴人くんの綺麗な顔が、すぐ間近に迫ってきた。

 その綺麗な瞳が、赤黒く染まる。
 そしてその歯が、私の肩に触れて……。

 不思議と痛みは感じなかった。
 それは晴人くんの優しさで……。

 なぜかすごく、嬉しかった。