晴人くんの様子がおかしかった日から一週間。
 晴人くんも特に変わったような仕草はなく、いつも通り完璧だった。
 けど……

 なぜか時々、私といると晴人くんは、前のように顔を赤くする。
 口を手で押さえて動揺している様子は、明らかに大丈夫じゃなさそうだった。
 ……私、何かしたかな……。
 そんな不安が拭えなかった。

「晴人くん」

 今日もちゃんと来ていた晴人くんに、ひとまず安堵の息をつく。
「彩花ちゃん。今日は早いね」
「はい。晴人くんが心配でしたから!」

 私は勢いに任せていってしまってから、後悔した。

 ……恩着せがましいよね。
 言うんじゃなかった。
 そう思って、晴人くんの顔を見た時。

「……彩花ちゃん、なんでそんなに俺のこと気にかけてくれんの」

 それはもちろん……好きだから、に決まってる。
 晴人くんが元気ないと私まで不安で元気なくなるもん。

 ……それくらい、好きなんだ。

 もしかして、気にかけすぎて迷惑……だった、かな?
 そう、不安になった。

「ちーっす!」

 その時。
 明るい声が部屋に響いた。
 生徒会のムードメーカー、藤本秋文(ふじもとあきふみ)くんだ。
 秋文くんは私と同い年だけど、晴人くんとまるで兄弟みたいに仲がいいんだ。
 私は二人のやりとりにいつも癒されてるの。

「秋文くん。今日も元気いいね」
「はーい!俺は元気いっぱいっす!」

 秋文くんはそう言って歯を見せて笑った。
「うん。それじゃあ、こっちの仕事お願い」
「もちろんっす!」
 秋文くんは晴人くんに言われた仕事に飛びかかった。

「秋文くんは本当に元気だねぇ」
「はい。本当に」

 私は笑みをこぼしながら答えた。

「………っ」
「え?」

 晴人くんは、また顔を真っ赤にして、苦しそうに息をしていた。

「は、晴人くん……⁈」
「晴人くん!大丈夫っすか?」

 私が言うと、秋文くんも慌てて駆けつけて来た。

「うっ……」

 晴人くんは苦しそうに声を漏らした。
「と、とりあえず……保健室に連れて行こう!」
「う、うん!」
 私は秋文くんに言われ頷いた。

 ……と言っても、今の晴人くんはとても歩けるようには見えない……。
 ど、どうしよう……!
 途方に暮れた、その時。

「よしっ……っと」
「え⁈」

 なんと秋文くんが晴人くんを……お姫様抱っこ、していた。

「ちょ、秋文くんっ⁈」
「細かいことは気にしない!それより行くよ!」

 秋文くんは晴人くんを抱きかかえたまま生徒会室を飛び出し、保健室に向かった。

「は、晴人くん……」
「晴人くん⁈しっかりしてくださいよっ!」

 私と秋文くんは目を瞑ってベットに横たわる晴人くんに呼びかけていた。
 その寝顔は……この状況では不謹慎だけど、とても綺麗だった。

「晴人くん!目を覚ましてくれよ!」

 秋文くんの懇願するような声が響く。
「晴人くん……」
 私は不安になって思わずーーーー

「あ、彩花ちゃん?」
「あ……」

 秋文くんの声で、自分が今していることに気づいた。

 ……私は晴人くんの手を、握っていた。

「きゃ⁈ご、ごめんなさい!」

 私は動揺して、思わず大声を出してしまった。
 ……すると。

 私の大きな謝罪に、晴人くんが目を開けた。
「晴人、くん?」
「彩花……ちゃん……」

 晴人くんはぼんやりとした瞳で言った。
「だっ、大丈夫ですかっ⁇」
 自分でも声が震えているのがわかる。
「晴人くん…大丈夫……」

 そんな私の声を遮って、電子音が響いた。
 それは、秋文くんのスマホの着信音だった。
「ん……誰だ…?もしもし」
 秋文くんはスマホを耳に当て、しばらくすると焦ったように声を出した。

由香(ゆか)大丈夫か⁈……今すぐ行く。ちょっと待ってろ!」

 そう言って、申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「晴人くん、彩花ちゃん、ごめん……彼女のとこに行かなきゃ。彩花ちゃん、晴人くんをよろしく頼む!」

 そう言って、ものすごい速さで保健室を出ていった。
 いつも面白くて元気いっぱいな秋文くんとは違い、今はすごく頼もしく見えた。
 彼女さんか……お幸せに!

 ……って、そうじゃなくて!

「晴人くん、大丈夫ですか⁈」

 晴人くんはぼんやりとした瞳のまま、何も答えない。
 私が不安になった、その時。

「……欲しい」
「へ⁈」

 そう呟いて、私を……

 ……抱きしめて、いた。

「ちょ、晴人くん……⁈」
「彩花ちゃんが欲しい……もう、我慢できない」

 そんな意味不明な言葉を呟いて、私を抱きしめる力を強めた。
「は、晴人……くん」
 私は困惑して言った。
 すりと晴人くんは、熱っぽい瞳で私に訴えかけるように言った。
「血、ちょうだい」