「チッ、あースマホ忘れた。ちょっと取りに教室行くわ。一輝待ってろ」


舌打ちしながら面倒くさそうに佐竹くんが歩き出した。


「えぇ、一緒に行くよ?どうせ、そのまま帰るんだし」


佐竹くんは顔を顰め、大場くんの頭をペシッとはたく。


「うるせーな、待ってろ。じゃぁな」


そう言って踵を返して歩いていってしまった。


「あーぁ、行っちゃったよ」


佐竹くんを見送ったあと、大場くんは私を見て困ったように笑った。

外からは蝉の鳴き声が聞こえてくるだけで、図書室の中はとても静かだ。


「…あ、あの、大場くんは好きな人とかいる?……ううん、やっぱりなんでもないっ!!気にしないで!」


私に振り向かないことぐらい分かってたのに、
どうなるわけでもないと思っていたのに自然と口からその言葉が出ていた。

私の質問に大場くんは驚いた顔をしてこちらを見ている。


あぁ、やってしまった。


後悔したけどもう遅い、心臓がバクバクして破裂しそう。
スカートの裾を握りしめて俯く。

どんな返事が返ってくるのか、ずっと聞きたかったのに聞きたくないような気がして怖くて堪らない。

しばらくの沈黙のあと、大場くんが口を開いた。


「…いるよ」


その言葉に顔を上げた瞬間、目が合った。
切なそうに笑う顔を見た瞬間、どうしようもなく胸が苦しくなった。


その表情が、誰に向けられたものなのか分かってしまう。


「…あ、そっか…いるんだね…」


身体に衝撃が走ったような錯覚を覚えたあと、急激に体温が下がっていくような感覚に襲われる。
意識的に口角を上げたけど私、上手く笑えてるかな。自信がない。


「うん、僕の片想いなんだけどね。…叶わぬ恋ってやつなのかな」


あぁ…やっぱり、好きな人って佐竹くんなんだよね、私の勘違いじゃなかったんだ。

ふっと笑いながら、大場くんが遠くを見つめる。

その顔が、とても綺麗で儚げで、今にも消えてしまいそうだった。