「なんで、あいつ泣きそうな顔してたんだ?」


ぽかんとしている旭の腕を小突くと、痛そうに顔をしかめていたのを思い出す。


「あれはだなー、ただ多く作りすぎたとか言ってたから、余ったやつをくれただけだろ?それに俺のことを好きとかそんなんじゃねぇよ」


うわぁ、これはかなり鈍感だ。あんなに分かり易い態度なのに全然気づいてない。


「あのさぁ、あれは旭に渡したんだから僕に渡したらダメだよ。しかも目の前で、あの子泣きそうだったじゃん」


同情したように言うと、旭は眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。


そういうところ旭らしいけど…。


「へぇへぇ、気をつけます」


絶対分かってないな。


旭は自分のことに関しても鈍いというか無関心すぎるところがあるんだよなぁ……。

でも、本人が気づかないなら僕が言ってもしょうがないし結局、旭の鈍感さに呆れただけだった。


「で、どうなのさ?」


「何が?」


とぼけているわけじゃなくて本気で分かってない。


「だーかーらー、好きな人いるのかってことだよ」


「いねぇよ」


即答された言葉に少しガッカリしながら、ほっと胸を撫で下ろす。

いつか誰かと付き合って、僕の前から居なくなるのかなと思うと、寂しくなて胸がきゅーっと締め付けられるような感覚に襲われた。

この時はまだ自分が旭に対して抱いている気持ちが何なのか気づいていなかった。