「ーーそう、佐々木教授である!! この俺だ!!」

「うるさいです! さっきから何をぶつぶつ言ってるんですか!」

「お前の結婚式のスピーチだろうが! このクソ忙しい中、オファーしやがって!」

「あぁ、俺は教授はお忙しいから憑むのをやめておこうって“妻”に言ったんですよ? でも“妻”が“第一助手”をしてくれた教授にどうしてもお願いしたいと。“妻”が」

 俺こと佐々木はこの春、ベリカ大学病院の教授に就任。異例のスピード出世と界隈をそりゃあ賑わしたのだが、隣で写真鑑賞する男がそれ以上の話題を提供する。

 世界的ヴァイオリニスト伊集院桜と入籍、そしてツインタワーで挙式披露宴を執り行うことを発表したのだ。

 一見伊集院ばかりが注目されるものの、外科医療に与する者ならば真田家を知らない者はいないだろう。彼の父親は有名な術式をいくつも提唱する。シンボルタワーを貸し切るなど長年べりが丘へ貢献してきた真田の力があってこそ。

 ただ流石の真田も入籍直後の挙式は叶わず、一年後となったが。

「はぁ、嘆かわしい。スーパードクターが、妻、妻、妻、尻に敷かれてますな?」

「敷かれる尻もない人に言われても堪えません。それより見て下さいよ、桜のウェディングドレスの試着写真。桜は可愛いし、何を着せても似合うんで、選んでって頼まれても選びきれない。よし、全部着せよう!」

 結婚式を一ヶ月後に控え、この浮かれよう。はっきり言ってーー羨ましい限りだ。

 スピーチ原稿を放り投げ、息を吐く。

「そんなに結婚っていい?」

「教授も守るものがある方が仕事に身が入りますよ。強くなれるんです」

「言ってくれるな。こちとら最年少教授だぞ」

「はは、生意気を申し上げてすいません。最年少教授」