「なぁ、桜」

「ーーうん?」

「結婚しよう、俺と家族になろうか」

 薬指に触れ、慎太郎は言う。
 本当は聞こえていたけれど、私は寝た振りをしてしまった。
 まだ自分の両親と向き合えていない。私が家族を持つのは、それからだ。
 慎太郎はそんな私の心はお見通しなのだろう。彼の腕にかかれば暴けないことは無い


 二度寝の後、別荘に佐々木医師がやってした。彼は私達を見るなり、笑う。

「いやぁ、これぞ昨夜はお楽しみでしたねっていうシチュエーションだよね? 俺はあの寒空の元、エミリーと高橋を見張っていたって言うのにさ!」

 発言と表情がちぐはぐ。情緒が不安定な人なのだろうか。テーブルへ突っ伏し、マグカップをカタカタ鳴らす。

「俺も可愛い彼女が欲しいよー、えーん!」

「ーー慎太郎、この人が教授になって大丈夫なの?」

「やめろ、桜。そういう言葉を逆に悦ぶタイプだ」

 佐々木医師は失礼な補足にすぐさま身体を起こし、反論するかと思いきや。

「やっぱり気が強い女性もいいな! 慎太郎!」

 私をキラキラした瞳で見る。
 そんな佐々木医師が言うには今回の騒動の黒幕はエミリー。
 片翼のミューズのハッシュタグは慎太郎のパソコンを高橋が使用し、拡散したのではないかと結論づける。

「エミリーに対抗するには、どうしたって伊集院家の影響力が必要だよ。桜ちゃんも子供じゃない、分かるよね?」

「ラウンジでの誤解は解けましたが、だからといって両親と即刻和解には至れません」

 いつもの主張にプラスアルファを加えた。

「ただ、歩み寄りたいとは思います。せっかく慎太郎が橋渡しをしてくれたから」

 慎太郎は無言で私の手を握る。

 きっと彼が側に居てくれれば上手くやれるはずだ。ううん、上手くやろうとは思わないで素直になればいい。

 そうだよね? 慎太郎の瞳を伺う。と、額にキスを贈られた。

「……執刀医は慎太郎のままでいいんだね? 言っとくけど俺も天才外科医なんだ、アメリカでも超有名な医師なんだからね!」

「はい、慎太郎がいいです」

「んだよ、ラブラブしやがって! 俺が付け入る隙が全然ないじゃん!」