「……私はいい、ホテルで留守番してる」

 鳴らない携帯電話を横目に返事をする。

「もしかして、真田氏が休日を返上して検査をしてくれるんじゃないか期待してる?」

「別にそういう訳じゃないけど」

 私の覚えを良くしようと行動へ移す可能性はゼロじゃないだろう。

 エミリーは肩を竦める。

「いい? 仕事が出来る人間とは休暇を楽しめる人間でもあるの。言い換えれば休む事が仕事の一環。桜も仕事とプライベートの線引きをしっかりしないと心身が保たなくなる」

「分かってるーーでも無理なの、私にはヴァイオリンしかない」

 今は翼を休める時と言われたりもした。しかし、その間に飛び方を忘れてしまったらどうする? 居場所が無くなっているかもしれないじゃないか。不安がとめどなく溢れ、うかうか立ち止まれない。

 結果、エミリーはそれ以上の言及しなかった。仕事とプライベートは分ける、を実践する。

 強がりで言う訳じゃなくて、彼女とはこの距離感がいい。エミリーの青い瞳は私の商品価値を示す鏡であって欲しいから。

「何だか疲れた。早いけどもう寝るね、お休みなさい」

「えぇ、お休みなさい。良い夢を」

 私達はそれぞれの寝室に向かった。