「俺は担当を降りる気、更々ありませんよ」

 反省の色を一切見せない俺にマネージャーのボリュームが増す。

「自分が何をしたのか理解してる? 桜にはね男性ファンが沢山ついてるの、世界中に! それから一流企業もスポンサーとして彼女を支えてる! あんな学生みたいなデートされたらイメージが悪くなるのよ!」

「あははっ、学生デートって! 天下のベリカ大学病院の医者が? まぁ、お前は遊び慣れてないもんな、しょうがない。エミリー、許してやってよ」

「許す訳ないでしょうが! 訴えてやる!」

 先輩が空気を読まず笑い、医院長が頭を抱えた。

「とにかく、真田君を伊集院さんの担当から外す。これは医院長命令だ。それから佐々木君には我が病院の威信をかけ、伊集院さんの手術をお願いする」

「用はお前の尻拭いをさせられる為、俺はアメリカから呼び戻されたんだ。単なる腱鞘炎の手術なら俺でなくてもいいのにさ」

「佐々木君! エミリーさんの前で失礼だろ!」

「はいはい、医院長の仰せのままに。それじゃあ治療方針の引き継ぎを頼みますよ、真田先生」

 先輩は俺を連れて部屋を後にしようとする。

「俺はーー」

「裁判沙汰はお前じゃどうにもなんないよ。迂闊な事を口走る前に、ここから出よう」

 医院長も引き止める様子はない。エミリーは怒りが収まらないポーズをしているが、その表情の下から勝ち誇った笑みが透けていた。

「真田、あの女は相当なやり手だ。俺を巻き込む事で今回の騒動はアメリカでも話題になっている」