医院長室では医院長と、桜のマネージャー、それから先輩が待ち受けていた。

 面子から察し、用件は間違いなくグッドニュースじゃないだろう。桜とのキスの余韻が一気に失われる。

「ーー先輩、お久し振りです。こちらにはいつ? お土産ありがとうございました」

 ひとまず対話に応じてくれそうな先輩へ挨拶。数年振りだが見た目に変わりはない。

 先輩は優雅に足を組み替え、軽く手を上げた。

「急遽、昨日の夜に帰ってきたよ。ケーキと菓子、恋人は気に入ってくれたか? お前に渡せば食べて貰えると思ってな」

「恋人……」

 テーブルへ置いてあった雑誌を投げて寄越す。医院長とマネージャーは無言のまま紙面を開くよう圧をかける。

「“片翼のミューズと天才外科医Sのお忍びデート”」

 見出しを読み上げた途端、金切り声が上がった。

「これは一体どういう事なの? 説明して頂戴、ドクター!」

 紙面では先日の様子が写真付きで報じられており、俺の顔にはお気持ち程度のモザイクが掛かっていた。

「真田君、君は伊集院さんと恋仲なのかね? いや、キスをしている写真まで撮られておいて恋人ではないと言われても困るが……」

「医院長! 桜とドクターが会ったのは最近なんですよ? 恋人であるはずないでしょう! 
 こちらの病院の医師は患者へ手を出すの? 精神的に落ちている彼女に言い寄るなんて信じられない!」

「伊集院桜には男性関連のスキャンダルが一度も無かったからね。いつまでも処女性をアピールするのは厳しいとはいえ、マスコミもSNSは大騒ぎだよ。はぁ、日本は平和でいいね」

 記事に対して三者三様の反応。話の経緯は把握した。マネージャーはスキャンダルを招いた俺を訴訟をすると言い、病院側は解決策として代わりの執刀医を準備したのだ。