慎太郎は何も言わず、私の言葉に耳を傾けて、父の事を知ろうとしてくれる。

「身体が弱い父を母が養っていたって言う人もいるけど、違う。母は繊細な父を支える事が俳優をやるモチベーションとなっていたの。実際、伊集院さんと再婚したら廃業したし」

「桜は再婚に反対だった?」

「母にだって新しいパートナーと人生を歩む権利はあると思う。だから反対はしなかった。ただ、父を裏切ったとは思ってる」

 素直な気持ちを吐き出したら水面が波立つ。寄せては返す母への感情を上手に乗りこなせない。

 ラグジュアリーな暮らしぶりが視界に入れば腹立たしく、かといって何をしてるか見えないと罵りたくなる。父と私との時間を無かった風にしないでって。

「ねぇ、反抗期っていつ終わるの?」

 確執を手放して楽になりたい。でも、なれない。

「……さぁな? 俺も絶賛反抗期中だ。医院長に対して。ちなみに反抗期に効く薬はないぞ。あれば先ず俺が飲まされてる」

「あっ、あぁ。私が言えた立場じゃないけど、あれは酷い。だいぶ拗らせてるよ? 出世は諦めたの?」

「出世か。そりゃあ野心が全く無い訳じゃない。正直、桜の手術を感動的に仕立てればこれまでの非礼がチャラになる」

 慎太郎は空を仰ぐ。飛行機が糸を引き、青色を割る。

「高橋という医師に言われた。私を出世の道具にすれば出世コースへ戻れるんでしょう?」

「ちっ、高橋の奴め。余分な話しかしねぇな」

「私は構わないし。そうしたらいいじゃない」

「ーーなぁ、俺があなたを道具扱いすると、本気で思っているのか?」

 穏やかな表情が一変、射抜く眼差しを向けられた。