「これで検査は一通り終わった。お疲れ様、さて肉を食べに行こう」

 滑らかに付け加えれば治療の一環として聞こえると思うのか、真田氏は微笑む。

「嫌です。早く結果を出して下さい」

「無理言うなって。ただでさえスケジュールを調整しているんだ。どんなに急いでも一週間はかかるぞ」

「一週間も……」

 自分なりに見通しを立てていただけに、目の前が真っ暗になる。追撃で頭痛を起こす。

「結果を待つ間、ホテルへ戻ってもよし、ご両親が用意した別荘に滞在しても構わない。いずれにしろ安静に過ごすのが条件だ。俺は入院を勧めるがな」

「一週間なんて、そんなに待てない!」

「待てないと言われても、待つしかないだろ」

「もう二ヶ月以上、弾いてないの! 指先の感覚がどんどん鈍くなっているのが分かる。ヴァイオリニストはね、一日練習をさぼったら取り戻すに三日かかると言われてるわ。早くしないと取り戻せなくなってしまう!」

「ここで無茶すれば取り戻せる事も取り戻せなくなるーーいいのか? 二度と弾けなくなっても」

「は、脅すつもり?」

「脅してなどいないさ。今のあなたはカフェインの離脱症状で苛立ち、頭痛もしているはずだ。カフェインが抜ければ楽になる。直に冷静になり、思考もクリアになるだろう」

「そんなコーヒーくらいで大袈裟! 無理! 嫌! さっさと手術して!」

 無理、無理、無理、この場で地団駄を踏みたい、もどかしくて仕方がない。

「これじゃあ、まるっきり駄々っ子だ。はぁ、仕方がない、ショッピングモールで好きな玩具を買ってやるから付いて来い」

「はぁ?」

 真田氏がパソコンを閉じ、突然、白衣を脱ぎ始めた。

「お肉だ、玩具だ、何を言ってるんですか? 私は手術の話をしていてーー」

「悪いが、俺はこれから代休なんだよ。治療方針に文句があるなら聞いてやる。あなたの外出許可は申請しといたからな」