「伊集院さん!」

 病室に戻る途中、看護師に呼び止められる。

「手紙?」

 封蝋(ふうろう)印をみ、伊集院が便りを寄越したのだと分かった。表情がみるみる険しくなるのを抑えられない。

「あの、こちらを伊集院さんへ渡してほしいと頼まれました」

 受け取りを拒否されたらどうしよう、瞳を彷徨わせる看護師。

「入院の手続きはエミリーに頼んだはずだけど?」

「はい、入院に必要な書類等はエミリーさんから事務方へ提出されています」

「……」

「とにかく一度目を通して欲しいと」

 深く頭を下げて封筒を渡そうとするので周囲の目もある。

「返事は約束しないけどいい?」

「えぇ、えぇ! 私は渡すだけでいいと言われておりますので」

 押し付けるみたいに渡して、看護師は踵を返す。きっと誰がこの手紙を持っていくか、揉めただろう。私と伊集院家の確執は周知の事実である。

 実家とは基本、エミリーを通してしか連絡を取らない。個人用の連絡先は教えず、私からは絶対接触しなかった。テレビや雑誌の取材でも家族に対する質問をNGにしてある。

 真田氏を紹介するとの連絡は母が独自に開拓したルートから入ってきて、どうあがいても私は伊集院の鳥籠から抜け出せないのだろう。

 雑に封を切り、メモとカードキーを出す。どうやら所有する別荘の場所、鍵を送ってきたみたいだ。
 加減を伺うでなく、最低限の用件しか綴られない用紙をくしゃりと丸め、ポケットへ突っ込む。鍵はこちらも看護師を介し返してやる。

 その後ーー残りの検査をしに真田氏がやってくるまで、部屋のベッドで横になっていた。