緊張で心臓の鼓動が速まっている。

 すると、駅員さんのアナウンスが耳に届いた。

「十時十五分発のクルーズトレイン クレセント号にお乗りの方はお急ぎください。まもなく列車の扉が閉まります」
「え? ちょっと待ってっ! 乗りますっ!!」

 ブーツにしてよかったわ、走りやすい!
 トランクを持ちながらスカートの裾を持って走るのはちょっとしんどいけど、妃教育で鍛えたバランス感覚と体力で乗り切っていく。


 なんとか発車時刻に間に合った私は、ふうと息を吐いた。

 こうして、私の列車の旅は始まった。
 お母様の死の真相とお父様の治療薬の手がかりを探しのために。

 そして殿下、必ず三か月後の結婚式までにあなたの元へ戻ります。
 だから、体に気をつけて待っていてください。


 と、思っていた。
 そう、この瞬間までは……。


「アリス」

 聞き慣れた声が耳に届き、私は振り返った。

「で、殿下……? な、なんでーーーーーー!!!!??」

 殿下はにっこりと笑って私を見ていた──。