私のお母様は、このトワネット国でも数人しかいないと言われる魔女の一人だった。
 魔法の扱いは極めて難しく、遺伝でしかその魔力を受け継ぐことはない。
 つまり、お母様の娘である私も魔女ではあるのだが──。
 魔女の存在は実は王族とそれに連なるごく一部の貴族しか知らず、魔女は主に技術発展や医療発展のために力を尽くしている。

「いつも東の森にこもって魔法と治療薬の研究をしてたのになんで……」
「わからん」

 お母様の主な仕事は、魔法関連の文献の解読だった。
 しかし、ちょうど一年前にお父様が現代で治療薬のない病気にかかってしまい、その病気を治すために仕事とは別で研究を重ねていた。
 文献を漁り、実験を繰り返して必死にお母様はお父様の命を救おうとしていた。

 どうしてお母様は亡くならなければならなかったのだろうか。

 そんな風に思っていた時、お父様が私に告げる。

「アリス、お前は何も考えなくていい。ただ、これまで通りニコラ・ラスペード殿下に嫁ぐことだけを考えていなさい」
「……はい」

 どうしてこんな子爵令嬢の娘をこの国の第一王子が婚約者としているのか。