きっと私が来るからと着替えはおこなったようだが、いつもの口数は少ないが凛とした子爵とは別人のようにやつれている。

「子爵、アリスは必ずあなたの治療薬の手がかりを持って帰ってきますよ。だから、帰ってきたら叱らずに迎えてやってください」
「恐れ入ります」

 私は子爵に微笑みかけると、手紙を大事にしまった。

「フィード」
「はい」

 私の後ろに控えていた護衛騎士のフィードが返事をした。

「お前の名が最後に書かれてあったのは不問にする」
「殿下、不問でなければいささか理不尽です」
「うるさい。さあ、行こうか」

 私はポートリエ子爵に挨拶を済ませると、馬車に乗り込んだ。

「フィード、わかっているな」
「はい、アリス様へのあなた様の愛は溺愛を通り越して執着にすら感じるほどですが、クレセント号の駅へと向かいます」

 私は満足そうに笑みを浮かべると、手紙を取り出して見つめた。
 婚約破棄かと最初は思ったが、きっとアリスのことだ。
 そのつもりはないのだろう。

 相変わらず君は、自分を低く見積もって遠慮をしている。
 君の努力家で家族思いなところが私は好きなんだ。