その時だ。
舞台の袖から、ツカツカ誰かがやってきた。
乱暴にハンカチで顔をゴシゴシ拭かれたかと思うと、厳しい声が降ってきた。
「泣いてる場合か。合唱はまだ続いてる。涙拭いて、意地張って弾け!」
天敵、律だった。

ーーそうだ、弾かなくちゃ! だってそれが、私の使命。

私は我に返り、歌の途切れ目から必死に弾き始めた。
ついてかなきゃ。ついてってやる、なんとしても!
歯を食いしばって、つっかえながら最後まで弾いた。