優しい愛で溶かされて

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【一之瀬 誠side】


「え、ちょっ、山下さん?!」


突然微笑んだかと思えば、急に俺の肩へと倒れ込んできた山下さんにてんやわんやしながらそう呼びかけるも返事はない。


寝たな…これは。


耳元で聞こえる寝息は心地良さそうで、起こすのが少しだけ可哀想に思えた。


さて、どうするか。山下さんと仲が良さそうな女性社員に送ってもらうか?でも誰と仲良いとか知らないしな。


いい方法が思いつかずその場で固まっていると、徐に居酒屋の扉が開いた。



「山下さん?!」



扉の開く音と同時くらいに響いたのは男性の少し焦った声だった。


「えー酔ってる。久しぶりだな、こんなに酔い潰れた山下さんを見るのは」


少し大きめの独り言を呟いた男性は、俺を一瞥するとニコリと笑った。

この人は確か…赤井主任……だったかな。


「入社早々悪いな、山下さんが世話になったね」


まるで身内の話をするみたいに言葉を並べる赤井主任によく分からない感情が湧き上がってくる。


「そんな親しい関係でしたら、もう少し気にかけてあげたらどうでしょうか」


言ってからハッとする。俺らしくない。こんな風に無意味に人に楯突くなんて。

赤井主任は一瞬眉をひそめたあと、また元の営業スマイルを浮かべた。


「そうだね。山下さん、頑張りすぎるところあるもんな」


その言葉と同時に、赤井主任は俺にもたれかかっていた山下さんを抱き抱えた。


「一之瀬くんは主役なんだから戻りな。山下さんは俺がちゃんと送り届けるから安心して。荷物も回収済み」


「…わかりました」


何も言及できないような雰囲気に、俺はそれ以上の言葉を飲み込んだ。

なんだかモヤモヤする気持ちの中、俺はうるさい店内へと戻った。


「一之瀬くんってば優しすぎるよぉ?」


隣に座る神崎さんの甘ったるい声を軽く流しながら、俺はずっとふたりのことを考えていた。

赤井主任と山下さん、一体どういう関係なんだろう。付き合ってる?

他人なんかどうでもいいはずなのに、なぜか気になってしまう。

他人に踏み入っていいことなんか何にもないのに。



【一之瀬 誠side END】
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