それから数十分後。お昼休憩を終えた同僚たちがぞろぞろとオフィスへ戻ってきた。

ガラガラと隣から椅子を引く音が聞こえ、一之瀬さんが戻ってきたことがわかった。


休憩時間中に軽く作り上げたOJTの資料を手に持ち、話しかけようとした時、私より先に一之瀬さんが声をかけてきた。


「山下さん、お昼食べてないですよね」


まるで、なんで嘘ついたの?とでも言いたそうな表情を浮かべる一之瀬さんに口を噤む。


「これ、食堂で売ってました。僕も食べたんですけど、美味しかったので山下さんにもどうぞ」


差し出されたのはたまごサラダが贅沢にのった美味しそうなたまごパン。


「今度は一緒に食べましょうね」


真っ直ぐすぎる優しさ。視界が揺らぐ。

あの時、〝一之瀬さんも神崎さんと食べたいに決まってる。だから私が引いてあげなきゃ。嘘をついてあげなきゃ。〟なんて、まるで人の為にみたいな理由で嘘をついた。だけど、それは自分を正当化するための理由だ。
本当は怖かったからだ。一之瀬さんが私との約束よりも神崎さんの誘いを優先する様を目の辺りにするのが怖くて、自分を守るために嘘をついたのだ。



「はいっ、今度は一緒に食べてください」


そう言いながらたまごパンを受け取ると、一之瀬さんは満足そうに微笑んだ。


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