いつの間にか恐怖心は消えていた。
「……お前ならそういうと思った。ありがとう、雅」
「……っ、わ、私は、何もっ……」
何を思ったのか不意に名前で私のことを呼ぶ旦那様。
久しぶりに自分の名前が呼ばれた気がしてドキドキと心臓が騒がしくなる。旦那様に名前を呼ばれた瞬間、心が暖かくなる。
自分の名前が、輝いたように感じた。
「……ち、ち……」
「今日はもう遅い。夜はまだ冷えるからもう寝なさい。詳しいことはまた明日話そう」
「……分かり、ました」
私も旦那様のことを名前で呼びたい。
無意識にそう思って口を開く。だけどその事に気づかなかった旦那様に遮られ、私の勇気は呆気なく散ってしまった。
「どうした?」
「いえ。なんでもないです。おやすみなさい」
落ち込んでいた私に気づいたのか旦那様は表情を伺うように覗き込む。
その事に驚いて早口でおやすみなさいと伝えた。



